第三十八幕 母べえ

責任のあり方  映画「母べえ」

 太平洋戦争前夜。思想犯として検挙された夫をもった妻と子供達の物語です。

 映画はラスト、場面は現代に変わって、母べえの臨終のシーンで終わります。

 場違いとも思える、現代場面の挿入。これが、映画の要点です。


 いつまでもいっこうに解決出来ない泥沼化した日中戦争は、次第に、人々の気持ちを、中国の後ろ盾にいる米英との直接対決への道も当然とする方向に誘導します。

 そんな時勢の中で、日中戦争を聖戦どころか失敗策とする野上滋(板東三津五郎)は、治安維持法違反で逮捕され、投獄されるのでした。

 父を逮捕された一家(野上佳代:吉永小百合、初子:志田未来、照美:佐藤未来)に、父のかつての教え子山崎徹(浅野忠信)が駆けつけ、以後、一家の精神的な支えとなっていきます。

 しかし、国賊、非国民として扱われる父を、犯罪者と思いもしない家族は、周囲とのギャップや一家に無理解な佳代の父(中村梅之助)に悩まされ、やがて、片耳が聞こえないため兵役を免れていた山崎にも赤紙が届きます。

 そんな忌まわしい過去がすべて精算ずみであるかような現代。

 静かに、佳代に死期が迫っていました。

 病院からの知らせで、照美(戸田恵子)が病院に駆けつけます。すでに虫の息の母に、照美が声をかけ、佳代が、答えます。

 近くにいる初子(倍賞千恵子)には聞き取れません。照美が佳代に代わって、佳代の返事を初子に伝えます。

 そのシーンに、滋の詩の朗読が重なって映画は幕を閉じます。

 佳代を苦しめる者は、いったい、誰だ、という詩です。

 ほとんど誰もが戦争に傾斜し、傾倒し、戦争反対者を、国賊、非国民とののしった時代は敗戦で終わりました。

 そんな、国をあげての戦争突入を容認した人たちが、戦争反対者を牢獄に送った責任を、物静かに、しかし、鋭く、この映画は糾弾しています。

 「母べえ」をこんなにも苦しめたのは、誰だ。

 わたしたち観客の誰もが、滋に答えなければならない一番重要な「現在」の意味かもしれません。



投稿者: 今井 政幸


『母べえ』公式サイト


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