第三十七幕 やわらかい手
- CATEGORYMenu:33 今井政幸のワタスの映画の小部屋
- COMMENT8
- TRACKBACK0
孫の渡航手術費用に大金が必要となったおばあちゃん、マギー(マリアンヌ・フェイスフル)は、職業案内所で高齢のため斡旋を断られます。
途方に暮れたマギーが、ふと見ると、シャッターに「接客係募集 高給」の張り紙が。すぐに、マギーは地下の店に入っていきます。
店のオーナーのミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)が応対します。
「知っているのか?うちの商売を。接客係がどんな仕事か」
「お茶を入れたり、テーブルを片づけたり、そういうことです」
「うちでの‘接客係’は婉曲表現だ」
ミキはマギーに、接客係が売春婦を表す遠回しな言い方であることを教え、マギーに、マギーがどんな売春婦かを問い糾します。
ごく普通の? 変態専門? 特別なワザは?
むろん、ミキはマギーがごく普通の主婦であることを見抜いています。
‘ファック’という言葉すら言えない、年もいってる、ミキが、マギー不採用の理由をあげていったとき、ミキは、マギーの、きれいではないが、なめらかな、すべすべした掌に目をとめました。
性風俗店‘セクシー・ワールド’。
ミキの店は、ミキが東京で見た日本式の ラッキー・ホール* の仕掛けをいち早くロンドンで取り入れた店でした。
壁越しの穴から、男性のなにがなにして、こちら側でマギーが手でなにをする(詳しい説明は省きます)あのラッキー・ホールです。
ミキから説明を聞いたマギーはそうそうに店を退散します。
が、孫の命がかかっていました。
次の日、意を決したマギーはミキの店を訪れたのでした。壁にある小さな穴を通してのマギーの仕事。
このラッキー・ホールの仕掛けが、映画のポイントです。
映画 『パリ・テキサス』(1984年 ヴィム・ヴェンダース監督作品。独・仏 合作)での半透明の仕掛け。男の側からは相手の女性が見えて、女性側からは男性が見えないあの仕掛けのように。
壁は、人間同士の意志の疎通を拒む障壁の謂いでしょう。
穴は、人間同士の気持ちが互いにうまく通じ合う意味合いです。
子供のはかない命を按じて落胆していたマギーの息子トムは、渡航費用の大金を工面した母が、工面先を固く口閉ざすことをいぶかります。
母と妻サラとの中に入って、なにかと二人の間を調整していたトムに、母への不信感がめばえ、やがて、トムが母の勤め先を知ったとき、トムは怒りを爆発させるのでした。
肉親の間で生まれた不信感の壁。
映画は、マギーと嫁、マギーと友達、マギーと仕事仲間、マギーと息子、といった、マギーといろんな相手との間にある壁と穴との関係を、交互に幾度も繰り返し見せてくれます。
その交互の繰り返しの中で、最後の最後にマギーが自分で見いだした、見事な意志の疎通。
寒々とした冬の季節に暖かい心が通いあう、映画「やわらかい手」。
見事です。
*編集部・注:参考記事 → 『ラッキーホール/Anthony's PENTHOUSE 07.06.03』 <R-13>
投稿者: 今井 政幸
→ 『やわらかい手』公式サイト
[人気blogランキング] ←クリック投票に協力して下さいませっ!
- 関連記事
-
-
休憩 その2 「キネマ旬報ベスト・テン 表彰式を見てきたよ」の巻 2008/02/06
-
第三十八幕 母べえ 2008/01/30
-
第三十七幕 やわらかい手 2008/01/23
-
休憩 その1 「そうだ、フィッシュ・ロースターだ」の巻 2008/01/16
-
別館 第一幕 ジェシー・ジェームズの暗殺 2008/01/13
-


