野を歩けば 「五倍子粉」(ふしこ)

Photo by K.Miyamoto 撮影場所: 富山県 南砺市 赤祖父池付近
野山を歩いていて名前のわからない実のようなものに出会ったのは、2020年、富山県南砺市の赤祖父池付近を歩いていたときだった。
実のようなものを付けた木は3本あり、帰って調べると実ではないと知った。
後日再度出かけて、試しに手の届く所の一個を割って見ると予想通り実のようなものは空洞で、中に羽のある小さな虫が残っていた。
もう一個も … 同じ結果だった。 キモチワル~(((;゚Д゚)))
投稿者: K.Miyamoto




木はヌルデ(白膠木 Rhus javanica)という、ウルシ科ヌルデ属の落葉小高木で、私が見たものはその木に出来た虫こぶ(虫えい)だったのです。
虫こぶには 「ヌルデノミミフシ」 という名前があり、ヌルデシロアブラムシ (Schlechtendalia chinensis アブラムシ科)という虫が拵えたもので、
これを乾燥させて粉にしたものを、「五倍子粉」(ふしこ) といい、いわゆる渋の成分であるタンニンを豊富に含みます。
酢酸等に鉄を溶かした 「鉄漿」(かね)と五倍子粉を混ぜて反応させると黒の染料になり、明治時代まではこれを歯に塗って
「お歯黒(歯を黒く染める化粧法)」 をしたといいます。
わが国において歯を染めるのは、女性の風習のように思いますが、一時期、一定の身分ある男性にもこの風習が伝わったようで、官位の象徴ともなり、官位五位(諸太夫)以上のものがつけることを許され、六位以下のものは「青歯者」「白歯者」といって
お歯黒をつけることを許されなかったといいます。
この 「五倍子粉」(ふしこ)は、当時入手困難だったのでしょう。

この木はヌルデの虫えいでつくる五倍子の代用に使ったので、キブシ(木五倍子)の名が付いたという。
キブシ(キフジ)は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株の落葉低木で、「果実をヌルデの虫えいでつくる五倍子の代用品とした」 という。
なんと、私が出会ったものは、化学染料などない当時の大切な、染料の素材だったのです。
[編集長-ひとこと]
15年くらい前だったか、京都の草木染めの工房を某雑誌の取材で訪れた時に、乾燥した五倍子を見せてもらったことがあります。
その時は、漢方薬のような感じの見かけで、何かの実を乾燥させたものだとばかり思っていました。
手で触れようとすると、「ウルシの仲間だから、かぶれることもあるよ」 と、止められたので憶えています。
液状になった黒っぽい染料も販売されているようでした。
取材の対象が国産のオリーブの葉と枝を煮詰めたものを使う 「オリーブ染め」 だったので、五倍子については話を聞いていませんでしたが、まさか、僕が苦手な虫由来だったとは、、、
触らなくて、よかった~~~。
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