Naoさんの 「しあわせ の かくれんぼ」 (小説 - 未完)
データ復旧しようにも破損が酷くて、どうしょうも出来なかったモノで、10年間放置しておいた。
それを破壊(分解してから、ディスクをハンマーで粉々にする)する前にダメ元で、ジャンク屋で買った電源付きのHDDケースに入れてみたら断片的にではあるけれど、データを少なからず回収できた。
今年が故Nao氏の七回忌ということで、ここ数か月間でボツ記事用の画像等をそこから拾い上げて何本か記事にしてきた。
今回は、小説家・童話作家を目指していた彼が出版社に持ち込むことを前提に書いた小説のイントロ部分を世に出したい。
2007年10月、当時、僕はフリー・ライターとして旅行雑誌なんぞで取材記事を書いたり、編集プロダクションの下請けで業界紙の編集をしていたりしていたので、彼から出版社のことや雑誌の投稿についての相談を受けていた。
彼は親戚が経営していた温泉ホテルで番頭?をしていたり、旅が好きだったので、その辺りのことを書くように薦めていたんですが、(それは、このブログで 『下男日記』 につながったのだけれど)どうしても、小説を書きたいと試行錯誤していた。
で、そんな時にとにかく、書き始めたのが、この 『しあわせ の かくれんぼ』 。だけれど、最終的にはアクション、ハード・ボイルドにしようか、官能小説にしようかと悩んでいて、結局は未完になってしまった。
では、読んでいただきましょうか・・・・
投稿者: Nao 構成: Anthony



「ハーイ!いただきまーす!行って来まーす。」
よし子と呼ばれた女性は満面の笑顔で受け答える。石井よし子。コケティッシュな顔立ちが愛くるしい22歳。地元の大学を卒業後、フラワーショップでアルバイトをしながら、モデルになるべく修行中。とは本人の弁で平たく言えば俗に言う「就職浪人」である。
そんな周囲の雑音を気にせずに毎日、店の花の手入れとダイエットに専念しているのも本人の意思の強さの現れであろうか。
「カランコローン」 と扉を開けると時代遅れの鐘の音が聞こえる喫茶店でいつもの日替わりランチをオーダーする。
この店のランチは一品ずつの量が少ない割りにはボリュームがあり、しかも安い!
将来、有名モデルになるためには食費を浮かしつつ体型を維持するのだ。などと思いつつ、すっかり食べ終わり食後のコーヒーを楽しんでいると、ポケットにしまいこんでいた携帯電話のバイブがうなり始めた。
親友の智美からのメールだ。 〈ハムちゃんからの預かり物渡したいから今日会えない?回るのじゃなくて縦型の渡すって!〉
もちろん即答である。 〈OK!じゃあダンケシェーンで6時にね。> と、いつもの喫茶店の名を書いた。
そうこうしているうちに店に戻る時間が近付いて来た。昼休みのメールは結構時間の経つのが早く感じられる。飲み残しのコーヒーを一気に飲み干すと 「ごちそうさま!ありがと!」 といつものようにレジで支払いを済ますと小走りで店へと駆けて行くのであった。
フラワーショップの昼からの仕事は、おおむねミニバンを運転しての配達である。今日も夕方までの得意先廻りを済ませると 「お疲れ様でした!」 と、待ち合わせの時間に遅れないように急いで着替えを済ませて店を後にする。
つるべ落としのこの時期は、同時に秋物のお洒落を披露する絶好の季節でもある。待ち合わせの喫茶店に現われたその女性は、すらりと伸びたスレンダーな体型に黒づくめのパンツスーツが似合う一種独特な雰囲気をかもしだしていた。
が、しかし、その右手にはキャラクターとは不釣り合いな古新聞を詰めた紙袋が握りしめられていた。
「ヨッシー、お待たせ。ごめんね、遅くなって。帰るギリギリで事案の電話がかかってきちゃってさ。」
よし子は笑いながら 「いいよぉー。いつもの事でしょ。それよりも今日も一日お疲れ様でした。」 と真面目そうな挨拶を済ませる
と、一瞬の沈黙を経て二人は吹き出した。
新堂智美。よし子とは高校以来の親友である。というより少し陰のあったよし子を無理矢理演劇部に誘い込み、本来持っていたよし子の天真爛漫さを引き出したのがこの智美である。
「ごめんね、いつも忙しいのに預け物ばかりお願いして。」
智美は 「何言ってんの、みずくさい。それより次のオーディションは決まった?」
「んー、まだなんだ。とにかく東京に行く旅費も貯めなきゃなんないし、それよりお母さんを説得しないとね。ま、智美ん家よりも理解があるけどね。」
と笑うと智美は 「本当だよー。うちなんか否応なしに親の命令だもんね。ヨッシーが少し羨ましいぞ。」
同じ高校。同じ大学を卒業した二人だが、よし子は就職浪人。親友の智美はと言うと、なんと婦人警官である。
というのも代々旧家が続く智美の生まれた村は、やはり役所務めが多く、ご多分にもれずに智美の父もY県警察の署長である。
しかし、そんな事情は関係無しに二人は今も大の仲良しだ。
ひとしきり近況報告を終えると二人はレジでの精算をすませ、すっかり暗くなった店の前で 「じゃあ、ありがとね。確かに受け取ったね」 と少々大袈裟なしぐさで古新聞が入った紙袋をトンボ型の自転車の荷台にくくりつけると
「じゃあね。またメールするね」 と走り去るよし子を智美は少し暗い表情でいつまでも見送っていた。
「ただいま」
「あら、お帰り。遅かったじゃない。ご飯はどうする?お風呂は?着替えてからにする?あらまあ、そんなに新聞どうするの?今日のお店はどうだった?」
いつものように矢継ぎ早に質問をしてくる母に 「花を包む古新聞を貰ってきたの。とにかくお腹ペコペコだからご飯先に用意しててね。 」 確かに最近では新聞の購読量が減っているから無理もない。
よし子は二階の自分の部屋に昇りつつ、ずっしりと重い古新聞の塊を腕に感じながら 「まったく、、、いつだって、、、面倒な事ばっかりするんだから。」 などとブツブツ文句を言いつつも、ようやく自室にたどり着き早速、紙袋の中をゴソゴソとかき回し
「あ、あった、あった」 と胸のなかでつぶやいた。
「ふーん。思っていたより結構小さいんだぁ。」
よし子の白くて小さな手には、おもちゃのような実弾入りの拳銃が握りしめられていた。
(2007/10/22 執筆)
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