回転寿司 (ショート・ストーリー)
姉ちゃんが悔しがっていた。
町の商店街でくじ引きキャンペーンがあったのだが、よりによって一等が当たってしまったのだという。
一等なのになぜ悔しがらなければならないのか。それは、このくじが当たりの等級に応じて、買い物をした金額の何割かが現金で還ってくるタイプのものだったからだ。
一等はなんと十割が還元される。つまり買った商品がタダになるということ。なのに姉ちゃんは、肉屋でしゃぶしゃぶ用の牛もも肉と豚こま切れ肉とで迷った末に豚こま切れ肉を買い、トンカツとコロッケとで悩んだ挙句にコロッケを選んでしまったのだ。
これは俺でも悔しい。 姉ちゃん、気持ちはわかるよ。
投稿者:クロノイチ
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町の商店街でくじ引きキャンペーンがあったのだが、よりによって一等が当たってしまったのだという。
一等なのになぜ悔しがらなければならないのか。それは、このくじが当たりの等級に応じて、買い物をした金額の何割かが現金で還ってくるタイプのものだったからだ。
一等はなんと十割が還元される。つまり買った商品がタダになるということ。なのに姉ちゃんは、肉屋でしゃぶしゃぶ用の牛もも肉と豚こま切れ肉とで迷った末に豚こま切れ肉を買い、トンカツとコロッケとで悩んだ挙句にコロッケを選んでしまったのだ。
これは俺でも悔しい。 姉ちゃん、気持ちはわかるよ。
投稿者:クロノイチ



「なんかモヤモヤするから、このお金、使っちゃお。回転寿司でも一緒に行かない?」
慰めてやったのがよかったのか、姉ちゃんが俺を誘ってきた。
「でも、千二百円しか戻って来なかったんだろ。赤字じゃねえか」
「お腹いっぱい食べるんじゃないから。あくまでもおやつね。夕飯の材料と惣菜、もう買っちゃったし。もし予算を越えちゃったら、そこからは折半よ」
たとえ折半でも、姉ちゃんがあまり食べないことを考慮すると、俺には充分にお得な条件といえる。俺は食べまくる気満々で、すかさず姉ちゃんに同意した。
近所の回転寿司は近くの漁港から直送される日本海の新鮮な魚を使っており、下手な都会の回らない寿司より、遥かに新鮮でおいしい。俺は地物のアジやカワハギを好んで食べる。甘エビもとろけるように甘くていいね。
「トロ」
「へい。トロ一丁!」
姉ちゃんが職人さんに直接注文する。地物を頼まず遠洋漁業の冷凍マグロを注文するとは嘆かわしい。
「トロ、お待ちどう」
「あ、どうも。── ねえねえ」
姉ちゃんが俺に話し掛けてくる。
「何?」
「トロっておいしいよね。トロっとしてて。ああ、今のダジャレじゃないわよ」
「ダジャレは成立しないな。元々トロっとしているからトロという名前になったんだし」
「え、そうなの」
姉ちゃんは残念そうな顔をした。こいつ、絶対ダジャレのつもりで言ったな。
俺は黙々と寿司を頬張った。俺は「回っている寿司を食べまくる派」だ。いちいち注文なんて、まだるっこしくていけない。
「もう一つ、トロ」
姉ちゃん、また冷凍マグロかよ。
内心で姉ちゃんの注文にケチをつけていると、俺の視線を感じたのか姉ちゃんが話し掛けてきた。
「── そういえばさっき、ネットショッピングしてて見つけたんだけど、フリースの着物ってあるのね」
めちゃくちゃ唐突な話題転換である。まあ、一応乗ってやろうか。
「へえ、初めて聞いたぜ」
「『フリース着物』 って、そのまんまの商品名で売られてたわ」
「へえー。俺だったら、振袖作って 『フリース・オーデ』 って名前で売り出すな」
姉ちゃんの表情が突如としてこわばる。
「あたしの、あたしのオチを取らないでよ」
「え……」
俺は絶句した。姉ちゃん、ちょっと前までは俺がどんなダジャレを言っても白けた顏しかしなかったのに。いつの間かキャラが変わったな。さては俺に感化されたか。もしや俺にはカリスマの素質があるのでは。
「違うわよ。白けた顏してたのは、あんたのダジャレがあまりにもつまらな過ぎただけだから。あたしは元々ダジャレ大好き人間よ」
俺は驚愕した。なぜ俺が考えていたことがわかる?
「だって顏に書いてあるじゃない」
俺は思わずスマホのカメラで自分の顔を確かめた。── うわあああああ! なんじゃこりゃ!
「どうやら思ったことが全部顔に出るようになったみたいね。── 文字で」
えええええええええええ!
………………………………。
あ、今ちょっとだけ白昼夢を見てた。姉ちゃんは幸せそうにトロを食べている。さっきからトロしか食べていないみたいだ。
まあいい。俺も食べることに集中しよう。バイ貝、ヤリイカ、イワシ、ノドグロ……。
この後夕飯があるというのに、つい食いしん坊の本領を発揮してしまった。満腹とまでは行かなかったが、積み上げた皿の高さは相当なものである。こりゃ、割り勘にしても結構な出費だな。
「そろそろ行かねえか?」
俺がそう言うと、姉ちゃんは首を横に振った。
「まだ、四皿しか食べてない」
あ、ホントだ。だから、いちいち注文してるからだって。回ってるのを食べろよ。
「トロと大トロ追加ね」
「へい、トロと大トロ一丁!」
「おいおい、まだ食べるのかよ。こっちはそろそろ帰りたいんだが」
「もうちょっと、待ちなさいよ。── じゃあ、おしまいにもう一つだけトロ追加で」
マジ、トロくせえ。
慰めてやったのがよかったのか、姉ちゃんが俺を誘ってきた。
「でも、千二百円しか戻って来なかったんだろ。赤字じゃねえか」
「お腹いっぱい食べるんじゃないから。あくまでもおやつね。夕飯の材料と惣菜、もう買っちゃったし。もし予算を越えちゃったら、そこからは折半よ」
たとえ折半でも、姉ちゃんがあまり食べないことを考慮すると、俺には充分にお得な条件といえる。俺は食べまくる気満々で、すかさず姉ちゃんに同意した。
近所の回転寿司は近くの漁港から直送される日本海の新鮮な魚を使っており、下手な都会の回らない寿司より、遥かに新鮮でおいしい。俺は地物のアジやカワハギを好んで食べる。甘エビもとろけるように甘くていいね。
「トロ」
「へい。トロ一丁!」
姉ちゃんが職人さんに直接注文する。地物を頼まず遠洋漁業の冷凍マグロを注文するとは嘆かわしい。
「トロ、お待ちどう」
「あ、どうも。── ねえねえ」
姉ちゃんが俺に話し掛けてくる。
「何?」
「トロっておいしいよね。トロっとしてて。ああ、今のダジャレじゃないわよ」
「ダジャレは成立しないな。元々トロっとしているからトロという名前になったんだし」
「え、そうなの」
姉ちゃんは残念そうな顔をした。こいつ、絶対ダジャレのつもりで言ったな。
俺は黙々と寿司を頬張った。俺は「回っている寿司を食べまくる派」だ。いちいち注文なんて、まだるっこしくていけない。
「もう一つ、トロ」
姉ちゃん、また冷凍マグロかよ。
内心で姉ちゃんの注文にケチをつけていると、俺の視線を感じたのか姉ちゃんが話し掛けてきた。
「── そういえばさっき、ネットショッピングしてて見つけたんだけど、フリースの着物ってあるのね」
めちゃくちゃ唐突な話題転換である。まあ、一応乗ってやろうか。
「へえ、初めて聞いたぜ」
「『フリース着物』 って、そのまんまの商品名で売られてたわ」
「へえー。俺だったら、振袖作って 『フリース・オーデ』 って名前で売り出すな」
姉ちゃんの表情が突如としてこわばる。
「あたしの、あたしのオチを取らないでよ」
「え……」
俺は絶句した。姉ちゃん、ちょっと前までは俺がどんなダジャレを言っても白けた顏しかしなかったのに。いつの間かキャラが変わったな。さては俺に感化されたか。もしや俺にはカリスマの素質があるのでは。
「違うわよ。白けた顏してたのは、あんたのダジャレがあまりにもつまらな過ぎただけだから。あたしは元々ダジャレ大好き人間よ」
俺は驚愕した。なぜ俺が考えていたことがわかる?
「だって顏に書いてあるじゃない」
俺は思わずスマホのカメラで自分の顔を確かめた。── うわあああああ! なんじゃこりゃ!
「どうやら思ったことが全部顔に出るようになったみたいね。── 文字で」
えええええええええええ!
………………………………。
あ、今ちょっとだけ白昼夢を見てた。姉ちゃんは幸せそうにトロを食べている。さっきからトロしか食べていないみたいだ。
まあいい。俺も食べることに集中しよう。バイ貝、ヤリイカ、イワシ、ノドグロ……。
この後夕飯があるというのに、つい食いしん坊の本領を発揮してしまった。満腹とまでは行かなかったが、積み上げた皿の高さは相当なものである。こりゃ、割り勘にしても結構な出費だな。
「そろそろ行かねえか?」
俺がそう言うと、姉ちゃんは首を横に振った。
「まだ、四皿しか食べてない」
あ、ホントだ。だから、いちいち注文してるからだって。回ってるのを食べろよ。
「トロと大トロ追加ね」
「へい、トロと大トロ一丁!」
「おいおい、まだ食べるのかよ。こっちはそろそろ帰りたいんだが」
「もうちょっと、待ちなさいよ。── じゃあ、おしまいにもう一つだけトロ追加で」
マジ、トロくせえ。
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