オシドリ夫婦 (ショート・ストーリー)

最近、近所の山田さんの奥さんの姿を見ない。

 
 通りがかりに山田さんちの庭を覗くと、雑草が生い茂っていて手入れされている様子がなかった。


 旦那さんは、出勤する姿をよく見かけるので引っ越したわけではない。となると、奥さんに何かあったのだろう。

 不思議と地元の事情に詳しい弟に訊ねてみた。

「ねえ、四つ角の山田さんの奥さん、どうかしたのかな?」

「あれ、知らなかったん? あの人、家、出てったってよ」

「ええっ! どうして?」











投稿者:クロノイチ


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 青天の霹靂である。確か オシドリ夫婦 って評判だったはずだ。

「亭主に問題があったみたいだな。奥さん、我慢しきれなかったんだろう」

「どんな問題があったのよ? お似合い の夫婦だと思ってたのに」

「近頃は 揉み合い の夫婦だったらしい」

「想像できないな。だって、山田さん、普通にいい人じゃない」

「いい人ぶってたようだな。たびたび奥さんを ぶってた ようだし」

「え、そうなの?──だけど、人前でいつも ベタベタ してるって聞いたことあるわよ」

「そいつは知らないが、山田さん、割と 粘着質 だよな」

 全然関係ない気がするけど、そこは流そう。

「奥さん、事あるごとに ノロけて たそうなのに」

「最近は、事あるごとに 呪ってた らしいな」

「旦那さん、家事 が得意で、よくやってたって」

加持 祈祷が得意で、家の中でよくやってたってよ」

 うわあ、イヤっぽい光景が浮かんでくる。

「で、でも、ついこないだまで、よく一緒にお出かけしてたのに」

「家庭裁判所にな」

「あらー」

 本当にあたしが無知だったみたいだ。

「じゃあ、山田さん、小さい子どもいたでしょ。あの子はどうなったのよ」

「円満解決で奥さんの元へ行ったよ。亭主は子どもを押しつけたくて、奥さんは親権を取りたくて」

「なるほど。これがホントの 『押し取り夫婦ね』 」

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