一生のお願い (ショート・ストーリー)
いきなり、弟が土下座してきて言った。
「頼む、姉ちゃん。一生のお願いだから」
またか、と思う。あたしの身の回りには、このフレーズを使う者がやたらと多い。弟もその一人である。
しかも、頼みごとがあるたびに口癖のようにそれを発するのだ。うっとうしいことこの上ない。
そもそも 「一生のお願い」 とは何なのか。
よく考えると日本語になっていないと思う。
投稿者:クロノイチ
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あたしは 「一生に一度きりの大切なお願い」 と勝手に補完して考えていたが、言っている当人はどう思っているのか、ぜひ見解を聞きたいものである。一般的には 「一生恩に着るから(忘れないとは言ってない)、お願い」 ってくらいのニュアンスかな。
ちなみに弟は一応、「一生に一度のお願い」 という意味で使っているようだ。
では、どうしてそれを連発できるのだろうか。単に恥知らずだからか? それともニワトリ並に忘れっぽいからか?
なんのことはない。つまりはこういうことだ。
「あんた、ついこないだ 『一生のお願い』 を聞いてあげたばかりでしょ!」
「それがな、あの時の俺はついさっきポックリ死んだんだ。そしてたった今、神の願いを受けて新たに生まれ変わった。外見上の違いは全くないから、姉ちゃんが気付かなかったのも無理はないがな。── うわははははは。何はともあれそういうわけで、俺はもう一度だけ 『一生のお願い』 を使うことができる!」
要するにガキなのである。 まあ、ガキだからこそ、ついつい許してしまうというところもあるのだが。
「認めないわよ。こないだのと、まんま同じ理屈じゃない。芸なさすぎ。それじゃあ、お願いなんて聞いてあげられないわ」
「ええー、そんなこと言わないで頼むよ。本当に一生のお願いなんだ。ねえ、これからはもう、一生生まれ変わらないからさ」
おい。 「一生生まれ変わらない」 って何だよ。
ちょっと面白かったので、どんなお願いか聞くだけ聞いてあげることにした。
「それはそうと、お願いって何よ」
「ぞうきんを縫ってほしいんだ」
「は? それって毎年学校に提出してるやつ? そんなの買い置きがあるでしょ」
ゾウキンごとき、わざわざタオルを犠牲にして縫うまでもない。 以前、十枚四百円で買ってきたやつが、物置のロッカーの中に残ってるはずだ。
「いやあ、俺としては、ぞうきん一つとってみても、決して手を抜くことなく、常にウケを狙い続けたいわけよ。で、手先の器用な姉ちゃんを見込んで、こうしてお願いしてるわけ」
「ゾウキンでどうやってウケを狙えるっていうのよ」
「変わった形のぞうきんを考えてる」
「具体的に言いなさいよ。変わった形のゾウキンなんて使いにくいだけでしょ」
「そこはインパクト重視ってことで。── 実は象の形にしてほしいんだ」
「え、象? エレファント?」
「そう。── ぞうさん の ぞうきん」
こいつの 「一生」 がやたらと軽い理由がわかった。 きっと人生を舐めているからだ。
「バーカ。あんたのたわ言にゃ付き合ってられないわ」
そう言ってあたしは 弟の 「一生のお願い」 を、イッショウ に付したのだった。
「頼む、姉ちゃん。一生のお願いだから」
またか、と思う。あたしの身の回りには、このフレーズを使う者がやたらと多い。弟もその一人である。
しかも、頼みごとがあるたびに口癖のようにそれを発するのだ。うっとうしいことこの上ない。
そもそも 「一生のお願い」 とは何なのか。
よく考えると日本語になっていないと思う。
投稿者:クロノイチ



あたしは 「一生に一度きりの大切なお願い」 と勝手に補完して考えていたが、言っている当人はどう思っているのか、ぜひ見解を聞きたいものである。一般的には 「一生恩に着るから(忘れないとは言ってない)、お願い」 ってくらいのニュアンスかな。
ちなみに弟は一応、「一生に一度のお願い」 という意味で使っているようだ。
では、どうしてそれを連発できるのだろうか。単に恥知らずだからか? それともニワトリ並に忘れっぽいからか?
なんのことはない。つまりはこういうことだ。
「あんた、ついこないだ 『一生のお願い』 を聞いてあげたばかりでしょ!」
「それがな、あの時の俺はついさっきポックリ死んだんだ。そしてたった今、神の願いを受けて新たに生まれ変わった。外見上の違いは全くないから、姉ちゃんが気付かなかったのも無理はないがな。── うわははははは。何はともあれそういうわけで、俺はもう一度だけ 『一生のお願い』 を使うことができる!」
要するにガキなのである。 まあ、ガキだからこそ、ついつい許してしまうというところもあるのだが。
「認めないわよ。こないだのと、まんま同じ理屈じゃない。芸なさすぎ。それじゃあ、お願いなんて聞いてあげられないわ」
「ええー、そんなこと言わないで頼むよ。本当に一生のお願いなんだ。ねえ、これからはもう、一生生まれ変わらないからさ」
おい。 「一生生まれ変わらない」 って何だよ。
ちょっと面白かったので、どんなお願いか聞くだけ聞いてあげることにした。
「それはそうと、お願いって何よ」
「ぞうきんを縫ってほしいんだ」
「は? それって毎年学校に提出してるやつ? そんなの買い置きがあるでしょ」
ゾウキンごとき、わざわざタオルを犠牲にして縫うまでもない。 以前、十枚四百円で買ってきたやつが、物置のロッカーの中に残ってるはずだ。
「いやあ、俺としては、ぞうきん一つとってみても、決して手を抜くことなく、常にウケを狙い続けたいわけよ。で、手先の器用な姉ちゃんを見込んで、こうしてお願いしてるわけ」
「ゾウキンでどうやってウケを狙えるっていうのよ」
「変わった形のぞうきんを考えてる」
「具体的に言いなさいよ。変わった形のゾウキンなんて使いにくいだけでしょ」
「そこはインパクト重視ってことで。── 実は象の形にしてほしいんだ」
「え、象? エレファント?」
「そう。── ぞうさん の ぞうきん」
こいつの 「一生」 がやたらと軽い理由がわかった。 きっと人生を舐めているからだ。
「バーカ。あんたのたわ言にゃ付き合ってられないわ」
そう言ってあたしは 弟の 「一生のお願い」 を、イッショウ に付したのだった。
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