菓子の貸し (ショート・ストーリー)

弟は家に帰ってくるなり、死にそうな声でこう言った。


「腹、減った。姉ちゃん、なんか食べるもの、ないか?」

 
 結構ひもじそうである。部活動でエネルギーを使い果たしたのだろうか。

「あ、ちょっと待ってて」

 冷蔵庫と食品戸棚を調べてみる。

 ── あら、珍しくなんにもないわね。












投稿者:クロノイチ


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「ないわ。全滅」

「夕飯はいつ?」

「ちょうど7時にご飯が炊ける設定だから、その頃ね」

「もたねえ。カップ麵とかポテチとかないのかよ」

「ないんだな、それが。そういや、あんた最近メチャメチャ食べまくってたじゃない。なくなる道理よ。あたしの分まで食べちゃって」

「確か姉ちゃんの部屋にはいつもなんかあったよな?」

「イヤよ。あたしのおやつ、なんであんたにあげなきゃなんないのよ」

「頼む。何でもいいんだ。 タダが嫌だっていうんなら、ゼッテー借りは返すから」

「そう? そこまでいうのなら……」

 あたしは自分の部屋からどら焼きを持ってきた。結構大きいので、かなりお腹の足しになるだろう。

「はい。一個 貸し ね」

 そう言ってしまってから、「菓子」 とのシャレになっていることに気付いた。あまりにありきたりなシャレなので、弟がスルーしてくれることを願う。

「お、姉ちゃんがダジャレを言った。しょうもな」

 ああ、やっぱり気付かれたか。だが、「しょうもな」と言われたのは我慢ならない。こうなれば反撃あるのみ。

「借りを作る身分で、そんなこと言うんだぁ。ふうん。別に要らないならそれでいいのよ」

「わあ、待って待って。要ります。要りますから」
「じゃあ、今度、アイスで返してちょうだい。ジェラート系で三個」

「ひでー。『コオリカシ』 じゃん。──はっ、これはまさか」

「ダジャレね。狙い通りの言葉をありがとう。これであんたも同じ穴のムジナよ」

 本当は 「そんなのオカシーだろ」 というベタなダジャレを言わせるべく誘導してた、というのは内緒だ。まあ、結果オーライ。

「でも、それはそれで、返済の条件は変わらないからね。でなきゃ、今回の話はなかったことに」

「クソー。この『菓子増し娘』め」

 あんた、いつの時代の人間よ。

 三日後、弟が「返済する」と言ってアイスを持ってきた。中身は「アイスの実・ぶどう味」三粒」。──そ、そんな……。

「ジェラート系で三個。確かに当初の約束通りに返済したからな」

 弟は笑いながら去っていった。

 ま、負けた。『バ菓子アイ』 に……。 ── いや、『バカ仕合い』 か? 

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コメント 2

There are no comments yet.
さえき奎
2019/10/17 (Thu) 15:10

笑いました

クロノイチさん、はじめまして。
酒とソラの日々」のさえき奎と申します。

完璧にて瑕疵なき菓子の小咄を下賜され、ありがたく拝読仕り候。
あまりにも可笑しき噺にて我が下肢震え、そこかしこ七転八倒し
仮死状態となる様、家人可視したりて、119番にて白き車呼ばんと
するを押し止めたり(笑)。

応援クリックさせていただきました。

クロノイチ
2019/10/17 (Thu) 17:34

菓子

できのいい小咄とかけまして、ドーナツと解く。そのこころは?
「あなおかし」

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