明晰夢 その1 (ショート・ストーリー)
これは夢だ。 それははっきりしている。
その割にはどこもかしこもやけにリアルなのだが、まあ、きっと話に聞く明晰夢というやつだろう。
そうでないとおかしい。なんでこの俺が、カブトムシみたいな赤茶色のヨロイを着て、青白い光を放つ両刃の剣を振り回さなきゃならないんだ。
それも頭にツノの生えたでっかいイノシシ相手に。
夜、布団に入って普通に目覚めたらいきなりこうなっていた。
投稿者:クロノイチ
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その割にはどこもかしこもやけにリアルなのだが、まあ、きっと話に聞く明晰夢というやつだろう。
そうでないとおかしい。なんでこの俺が、カブトムシみたいな赤茶色のヨロイを着て、青白い光を放つ両刃の剣を振り回さなきゃならないんだ。
それも頭にツノの生えたでっかいイノシシ相手に。
夜、布団に入って普通に目覚めたらいきなりこうなっていた。
投稿者:クロノイチ



まるで、出来の悪いゲームの世界に引きずり込まれたみたいだ。モンスターを出すなら、もっとセンスのいいのにしてくれ。
イノシシが突進してくる。デカイ、ハヤイ、クサイ。いや、クサイといってもサイではない。イノシシだ。
俺はヒラリとイノシシをかわした。当然だ。これが明晰夢ならばこの世界の全ては俺の思いのままになる。ならばまずは試そう。この 「ソード・オブ・ブルーホワイト 」の威力を。
ああ、適当に剣を振り下ろしたら、向こうから勝手に当たってきやがった。なんというご都合。これが物語だとしたら、最後は絶対に夢オチだな。だが、今回は最初から夢だということがわかっている。どう落とし前をつける、この俺。
あ、スマホにメールが来た。というか、スマホは持ってるのか、俺。さすがは夢。なんでもありだな。
ええと。
(モンスターを倒した。15マイル手に入れた)
何これ。マイルですか? 説明しろ、ゲームマスター!
── あ、俺か。ここが夢の中ってことは、ルールを決めてるのも俺ってことになる。正しくは俺の無意識だけどな。
おっ、またメールが来た。今度は長いぞ。色々と説明が書いてある。
(あなたはこの世界の名所を全て訪れ、スタンプ帳をコンプリートしなければなりません。世界を移動するにはマイルを貯めて特典航空券をゲットする必要があります)
(マイルはモンスターを倒したりイベントをクリアしたり、アンケートに回答したりメールのリンク先にアクセスしたりすることで得られます)
ふむ。面白いのかつまらないのか、評価が難しいルールだな。
(この世界には魔界から魔王がお忍びで来ています。魔王は暴力こそ振るいませんが、既に魔界の名所を行き尽くし、この世界の名所の完全制覇をも狙う強大なライバルです)
なるほど。どちらが早く全名所を制覇するか魔王と競うわけか。
(しかし、この世界の最後の名所は究極の難所です。それは人類未踏の地 「エデン」。そこは、誰かが到達の証のスタンプを押した瞬間に七色の光を発して消滅すると言われています。このエデン到達をめぐって、魔王と争うことになるかも……)
ゲームとしては面白いかもしれないな。俺の思い通りにどうとでもなる世界だが、しばらくルールのままに生きてみるのも一興か。
(なお、マイルはポイントに交換することもできます。交換比率は100マイル→1ボイントです)
おい,やたら交換比率悪くないかこれ。
(ポイントは各国の通貨と交換できます。これによって装備を調えたり、宿泊や食事をしたりできます。ちなみに1000000ポイント→1円です)
ヒデー。1円貯めるのに、イノシシ何匹やっつけなきゃならないんだ。しかも通貨単位、「円」かよ。ゴールドとかじゃないのかよ。
(魔王は魔界の王様なので大金持ちです。100000000ドルの資産を持っています)
そっちはドルかい。イノシシ何兆匹分の資産だよ。
(さあ、旅立ちましょう。世界一の旅行王を目指して)
無理だよ。死ねよ、俺の無意識。
(死にますか?)
ああ、変なメール送ってくんな。お前が死んだら俺も死ぬだろ。
(まあ、試しに死んでみましょう)
え、なんだ? いきなり翼の生えた美女が舞い降りてきて俺の右腕を掴んだぞ。あ、俺の身体が浮き上がった。
── 待て、違うぞ。俺の身体は地上で寝ている。じゃあ今、宙に浮いているこの俺は?
「すぐに、あなたの魂を天国へお運びします」
おい、俺の腕を掴んでいるのは天使か? マジで俺は死んだのか? 夢じゃなかったのか?
一瞬パニックに陥りそうになったが、すぐに俺は気付いた。 ── いや、自分が死んだ夢を見ているだけだ。騙されはしない。
俺は天使に言ってやった。
「俺が 『どうせ夢オチだろ』 と考えてたから、裏をかいて空に浮かせてみたんだろう。『夢オチならぬ夢浮きです』 とか言って、夢の最後をきれいにまとめたかったんじゃないのか?」
すると天使はニコリと笑った。
「あんたにしてはなかなかの名推理ね」
あれ、これは姉ちゃんの声じゃないか。
「最初に夢だと気付いたのも見事だったわ。世界の原理を見抜くなんて、なかなかできることじゃないのよ」
姉ちゃんの声で褒められるとなんだかくすぐったい。
「だけど、あたしがあんたの魂を空に運んだ本当の理由まではわからなかったみたいね」
天使は冷たく言い放つと俺の手を放した。俺は落ちていく。遥か真下の俺の身体へと……。
俺は叫ぶ。
「持ち上げといて落とすのかよ!」
やっぱり夢オチでした。
イノシシが突進してくる。デカイ、ハヤイ、クサイ。いや、クサイといってもサイではない。イノシシだ。
俺はヒラリとイノシシをかわした。当然だ。これが明晰夢ならばこの世界の全ては俺の思いのままになる。ならばまずは試そう。この 「ソード・オブ・ブルーホワイト 」の威力を。
ああ、適当に剣を振り下ろしたら、向こうから勝手に当たってきやがった。なんというご都合。これが物語だとしたら、最後は絶対に夢オチだな。だが、今回は最初から夢だということがわかっている。どう落とし前をつける、この俺。
あ、スマホにメールが来た。というか、スマホは持ってるのか、俺。さすがは夢。なんでもありだな。
ええと。
(モンスターを倒した。15マイル手に入れた)
何これ。マイルですか? 説明しろ、ゲームマスター!
── あ、俺か。ここが夢の中ってことは、ルールを決めてるのも俺ってことになる。正しくは俺の無意識だけどな。
おっ、またメールが来た。今度は長いぞ。色々と説明が書いてある。
(あなたはこの世界の名所を全て訪れ、スタンプ帳をコンプリートしなければなりません。世界を移動するにはマイルを貯めて特典航空券をゲットする必要があります)
(マイルはモンスターを倒したりイベントをクリアしたり、アンケートに回答したりメールのリンク先にアクセスしたりすることで得られます)
ふむ。面白いのかつまらないのか、評価が難しいルールだな。
(この世界には魔界から魔王がお忍びで来ています。魔王は暴力こそ振るいませんが、既に魔界の名所を行き尽くし、この世界の名所の完全制覇をも狙う強大なライバルです)
なるほど。どちらが早く全名所を制覇するか魔王と競うわけか。
(しかし、この世界の最後の名所は究極の難所です。それは人類未踏の地 「エデン」。そこは、誰かが到達の証のスタンプを押した瞬間に七色の光を発して消滅すると言われています。このエデン到達をめぐって、魔王と争うことになるかも……)
ゲームとしては面白いかもしれないな。俺の思い通りにどうとでもなる世界だが、しばらくルールのままに生きてみるのも一興か。
(なお、マイルはポイントに交換することもできます。交換比率は100マイル→1ボイントです)
おい,やたら交換比率悪くないかこれ。
(ポイントは各国の通貨と交換できます。これによって装備を調えたり、宿泊や食事をしたりできます。ちなみに1000000ポイント→1円です)
ヒデー。1円貯めるのに、イノシシ何匹やっつけなきゃならないんだ。しかも通貨単位、「円」かよ。ゴールドとかじゃないのかよ。
(魔王は魔界の王様なので大金持ちです。100000000ドルの資産を持っています)
そっちはドルかい。イノシシ何兆匹分の資産だよ。
(さあ、旅立ちましょう。世界一の旅行王を目指して)
無理だよ。死ねよ、俺の無意識。
(死にますか?)
ああ、変なメール送ってくんな。お前が死んだら俺も死ぬだろ。
(まあ、試しに死んでみましょう)
え、なんだ? いきなり翼の生えた美女が舞い降りてきて俺の右腕を掴んだぞ。あ、俺の身体が浮き上がった。
── 待て、違うぞ。俺の身体は地上で寝ている。じゃあ今、宙に浮いているこの俺は?
「すぐに、あなたの魂を天国へお運びします」
おい、俺の腕を掴んでいるのは天使か? マジで俺は死んだのか? 夢じゃなかったのか?
一瞬パニックに陥りそうになったが、すぐに俺は気付いた。 ── いや、自分が死んだ夢を見ているだけだ。騙されはしない。
俺は天使に言ってやった。
「俺が 『どうせ夢オチだろ』 と考えてたから、裏をかいて空に浮かせてみたんだろう。『夢オチならぬ夢浮きです』 とか言って、夢の最後をきれいにまとめたかったんじゃないのか?」
すると天使はニコリと笑った。
「あんたにしてはなかなかの名推理ね」
あれ、これは姉ちゃんの声じゃないか。
「最初に夢だと気付いたのも見事だったわ。世界の原理を見抜くなんて、なかなかできることじゃないのよ」
姉ちゃんの声で褒められるとなんだかくすぐったい。
「だけど、あたしがあんたの魂を空に運んだ本当の理由まではわからなかったみたいね」
天使は冷たく言い放つと俺の手を放した。俺は落ちていく。遥か真下の俺の身体へと……。
俺は叫ぶ。
「持ち上げといて落とすのかよ!」
やっぱり夢オチでした。
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