挑戦隊チャレンジャー・完全版 第一話 「襲来! コーヒー党」 その1 (小説)
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時は近未来。
ここはとある都市の郊外にある全寮制中高一貫のマンモス校・私立セントバーナード学園。
その広大な敷地の一角に「挑戦部」の部室はある。校舎から完全に独立した巨大かつ極めてユニークな一戸建だ。
その姿はまさし く「犬の顔をしたスフィンクス」 以外の何物でもない。さらには全ての面が金属でできており、実にメカメカしかった。空想の世界ならば間違いなく犬型巨大ロボットとして起動するであろう威容である。
そんな不可解極まりないオブジェに自動ドアが付けられ、内部に幾つもの部屋が設けられて、「挑戦部」のためだけの部室として供されているのだった。
投稿者:クロノイチ
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ここはとある都市の郊外にある全寮制中高一貫のマンモス校・私立セントバーナード学園。
その広大な敷地の一角に「挑戦部」の部室はある。校舎から完全に独立した巨大かつ極めてユニークな一戸建だ。
その姿はまさし く「犬の顔をしたスフィンクス」 以外の何物でもない。さらには全ての面が金属でできており、実にメカメカしかった。空想の世界ならば間違いなく犬型巨大ロボットとして起動するであろう威容である。
そんな不可解極まりないオブジェに自動ドアが付けられ、内部に幾つもの部屋が設けられて、「挑戦部」のためだけの部室として供されているのだった。
投稿者:クロノイチ
今、四人の挑戦部の部員達が部室のメインルームである「茶の間」に集まり、暗い表情で俯いている。
「…………」
「むぅ…………」
「ふぅ…………」
「はぁ…………」
部員の誰もが部室内の空気の重さを実感していた。口々に洩れる溜息までもが重い。部屋全体が暗いムードに包まれ、皆押し黙って唇を噛みしめている。
学園の課外クラブの中で最も異彩を放つ部──それが挑戦部だ。自分の目的に向かって常に挑戦し続ける五人の異端児が、活動拠点である「部室」を手に入れるために敢えて結託して立ち上げた部である。言わば寄り合い所帯。部員は全員異なる分野のエキスパートであり、普段は各自好き勝手に飛び回って思い思いの活動を行っている。従って部室の中に四人もの部員が揃うことは希有な出来事だった。──理由があってわざわざ集合しない限りは。
「ちぃ…………」
「くぅ…………」
「しょぅ…………」
「おい! 溜息で遊ぶな! 鬱陶しい!」
黒いカンフースーツに身を包んだ短気そうな男が荒々しく叫ぶ。
彼の名は黒烏龍(くろう・りゅう)。高等部二年生。ストリートファイトで無敗を誇る男だ。世界一強い格闘者を目指して連勝記録を伸ばし続けることに日夜挑戦していた。なお「ストリートファイト」は、かつてオリンピックの種目になり損ねたこともある国際的な公式競技であり、単なる喧嘩とは大きく異なる。
「それから! 空気はやたらと重いわ、室内は暗くなるわ、何だこの部室は? イライラするぜ! ──なあ、玉郎(ぎょくろう)。お前の仕業だろ」
龍が、銀縁メガネの痩せた男をギロリと睨み付ける。玉郎と呼ばれた男は、恐ろしいまでに理知的な顔立ちをしているにも関わらず、テカテカとした不思議な光を放つ奇妙な学生服を着ているせいか、神経質そうな変人にしか見えなかった。
彼の名は緑玉郎(みどり・ぎょくろう)。高等部二年生。一言で言い表すならば、超ド級の変態天才科学者である。変態であるがゆえに、飛び級でアメリカの大学に留学したり、世界的な科学誌に論文を寄稿したりといった当たり前のことは一切しない。ひたすら自分の興味の赴くまま、この世の謎の解明に日夜挑戦している男だ。
「あ、わかりましたか。勝手に空気を重くしてすみません。このどんよりとした雰囲気の中なら気にならないと思ったのですが」
玉郎は悪びれた様子もなく肯定した。
「気になるわ! なんでこんなことをする」
「会議をしながら皆さんの筋力増強も一緒にできればと思い、親切心から部室の空気を重力制御装置で……」
「重苦しくて、会議どころじゃなかっただろうが」
「僕は平気でしたけど」
「普段から『体力増強万能戦闘学生服』を着込みっぱなしのズルチートにゃ言われたくねえや」
「ああ、僕は兵器でした」
「ねえ、緑先輩。空気を軽くしてくださいよ。あたし、空気が薄いのは慣れてますけど、重いのは、吸うのも吐くのも苦しくて」
くせっ毛でショートカット、溌剌とした印象の小柄な女子が訴える。彼女の名は桃高(ももたか)びすか。高等部一年生。中等部の頃に七大陸の最高峰の登頂に成功した天才登山家だ。疲れを知らない無限の体力と、指先の力だけで岩壁をよじ登れる超人的な筋力を誇る。現在、世界の未踏峰への挑戦を計画し、日夜訓練に励んでいた。
「わたしからもお願いします。先輩の親切心は非常にありがたく思うのですが、天才の先輩のこと、当然『大きなお世話』という言葉はご存じですよね」
びすかに続き、ボニーテールの長身の女子が真剣な面持ちで言った。びすかとは対照的におとなしめの印象だ。彼女の名は鴨見季彩(かもみる・きいろ)。高等部一年生。一年間に五百以上のオリジナルレシピを考案する料理研究家である。優れた舌と犬に匹敵する鋭敏な嗅覚を有しており、作る料理も食材の香りを生かしたものが多い。「カモミイヌ」のペンネームで多数のレシピ本を出版する傍ら、日夜最高の味を作り上げることに挑戦している。
この二人の服装に特筆すべき点はない。学園指定の女子用制服を普通に着用しているだけだ。何の変哲もない紺のブレザーとスカートの組み合わせである。この学園では制服の着用義務はなく、服装は基本的に生徒の自由なのだが、女子はなぜか制服を着る者の割合が圧倒的に多い。
「『大きなお世話』……ですか?」
玉郎が大きく首を傾げる。
「──僕は『せわしない』人間だと皆に言われるのですが……」
「え…………。──先輩、それでよく天才やってられますね」
呆れ返った様子の季彩の言葉に、玉郎は照れたように頭をかいた。
「失礼。冗談がスベったようですね。基本的に僕の言葉は真面目に受け取らないでください。──では、ご要望にお応えして空気の重さを戻しましょう」
玉郎が手にしたスマートフォンを操作すると、照明が一気に明るくなった。
「わあ、身体が軽くなった!──あれ?」
「桃高さん。重力制御装置に電力を集中させていたのを元に戻したんですよ」
「ううん。明かりのことじゃなくて、あそこ」
びすかが指差した先には、挑戦部のスケジュール黒板があった。
(修行に行ってくるネ 部長)
黒板の端に走り書きのような文字でそう書かれている。部屋の暗さのせいで、今まで誰も気付かなかったようだ。
「あ! 紅茶郎の奴、またサボりやがった!」
龍が悔しそうに叫ぶ。
「──許せん。そもそも、俺達をここに招集したのはあんにゃろだろうが! 約束の時間までまだ二分あると思っておとなしく待ってりゃ、この裏切り。ひど過ぎる!」
龍に「あんにゃろ」呼ばわりされているのは、挑戦部部長・紅紅茶郎(くれない・こうちゃろう)である。高等部二年生。空手が得意で性格はがさつ。年がら年中、紅茶色のハーフコートを着ている。何かドデカいことに挑戦しようと決意しているものの、未だかつて誰もやっていないことしかやりたくないというひねくれ者のため、まだ挑戦する目標を見つけられないでいる男だ。
とはいえ、いざとなれば、どんなことにでも挑戦できるよう、肉体と精神をあらゆる方向から鍛えまくっている。特に山奥で滝に激しく打たれる修行を好み、他の部員から陰で「SM(修行マニア)の人」と呼ばれていた。
「どうしましょうか。部長なしでは会議なんてできません」
「そうですね。やはり部長がいないと」
季彩が落胆の表情で発した言葉に、玉郎が同調する。
「あんにゃろ、俺達が今何を決めたところで、結局無視して自分の思い通りにしやがるからな。この場にいてくれんと、話は何も進まねえ」
天井を見上げて龍が嘆いた。
「じゃあ、ひとまずティータイムにしませんか? 会議ではなく茶飲み話ということで」
「いいですね、それ」
びすかの提案に玉郎がすかさず飛びつく。続いて残る二人も同意の笑みを見せた。反対するものなどいようはずもない。なぜなら挑戦部全員、お茶や紅茶、ハーブティーの類に目がなかったからである。
そもそも専門分野が全く異なる五人が挑戦部に集結したのは、単に「挑戦」という理念が一致していただけではなかった。元々中等部の頃からの知り合いで、いわゆる茶飲み友達だったことが大きい。かつては全員が中等部の「お茶同好会」に所属しており、一緒に茶話会を楽しんだり、おいしいお茶の入れ方を研究したりする活動を通して、互いをお茶を愛する同志として認め合っていたのだった。
だからこそ。
誰にとっても許せないものがあった。
それが「コーヒー党」。
世の中のお茶と名の付くもの全てとお茶の文化を破壊し、地球上の嗜好飲料をコーヒー一色で塗り潰そうとする悪の秘密組織である。
そんなことをして何になるのか、どんな意味があるのか、それは誰も知らない。だが、現実にコーヒー党は日々猛威を振るい、高度な科学力と、強力な戦闘力を持つメカ怪人を駆使して、お茶やハーブティーを愛する者を恐怖に陥れ続けていた。
「…………」
「むぅ…………」
「ふぅ…………」
「はぁ…………」
部員の誰もが部室内の空気の重さを実感していた。口々に洩れる溜息までもが重い。部屋全体が暗いムードに包まれ、皆押し黙って唇を噛みしめている。
学園の課外クラブの中で最も異彩を放つ部──それが挑戦部だ。自分の目的に向かって常に挑戦し続ける五人の異端児が、活動拠点である「部室」を手に入れるために敢えて結託して立ち上げた部である。言わば寄り合い所帯。部員は全員異なる分野のエキスパートであり、普段は各自好き勝手に飛び回って思い思いの活動を行っている。従って部室の中に四人もの部員が揃うことは希有な出来事だった。──理由があってわざわざ集合しない限りは。
「ちぃ…………」
「くぅ…………」
「しょぅ…………」
「おい! 溜息で遊ぶな! 鬱陶しい!」
黒いカンフースーツに身を包んだ短気そうな男が荒々しく叫ぶ。
彼の名は黒烏龍(くろう・りゅう)。高等部二年生。ストリートファイトで無敗を誇る男だ。世界一強い格闘者を目指して連勝記録を伸ばし続けることに日夜挑戦していた。なお「ストリートファイト」は、かつてオリンピックの種目になり損ねたこともある国際的な公式競技であり、単なる喧嘩とは大きく異なる。
「それから! 空気はやたらと重いわ、室内は暗くなるわ、何だこの部室は? イライラするぜ! ──なあ、玉郎(ぎょくろう)。お前の仕業だろ」
龍が、銀縁メガネの痩せた男をギロリと睨み付ける。玉郎と呼ばれた男は、恐ろしいまでに理知的な顔立ちをしているにも関わらず、テカテカとした不思議な光を放つ奇妙な学生服を着ているせいか、神経質そうな変人にしか見えなかった。
彼の名は緑玉郎(みどり・ぎょくろう)。高等部二年生。一言で言い表すならば、超ド級の変態天才科学者である。変態であるがゆえに、飛び級でアメリカの大学に留学したり、世界的な科学誌に論文を寄稿したりといった当たり前のことは一切しない。ひたすら自分の興味の赴くまま、この世の謎の解明に日夜挑戦している男だ。
「あ、わかりましたか。勝手に空気を重くしてすみません。このどんよりとした雰囲気の中なら気にならないと思ったのですが」
玉郎は悪びれた様子もなく肯定した。
「気になるわ! なんでこんなことをする」
「会議をしながら皆さんの筋力増強も一緒にできればと思い、親切心から部室の空気を重力制御装置で……」
「重苦しくて、会議どころじゃなかっただろうが」
「僕は平気でしたけど」
「普段から『体力増強万能戦闘学生服』を着込みっぱなしのズルチートにゃ言われたくねえや」
「ああ、僕は兵器でした」
「ねえ、緑先輩。空気を軽くしてくださいよ。あたし、空気が薄いのは慣れてますけど、重いのは、吸うのも吐くのも苦しくて」
くせっ毛でショートカット、溌剌とした印象の小柄な女子が訴える。彼女の名は桃高(ももたか)びすか。高等部一年生。中等部の頃に七大陸の最高峰の登頂に成功した天才登山家だ。疲れを知らない無限の体力と、指先の力だけで岩壁をよじ登れる超人的な筋力を誇る。現在、世界の未踏峰への挑戦を計画し、日夜訓練に励んでいた。
「わたしからもお願いします。先輩の親切心は非常にありがたく思うのですが、天才の先輩のこと、当然『大きなお世話』という言葉はご存じですよね」
びすかに続き、ボニーテールの長身の女子が真剣な面持ちで言った。びすかとは対照的におとなしめの印象だ。彼女の名は鴨見季彩(かもみる・きいろ)。高等部一年生。一年間に五百以上のオリジナルレシピを考案する料理研究家である。優れた舌と犬に匹敵する鋭敏な嗅覚を有しており、作る料理も食材の香りを生かしたものが多い。「カモミイヌ」のペンネームで多数のレシピ本を出版する傍ら、日夜最高の味を作り上げることに挑戦している。
この二人の服装に特筆すべき点はない。学園指定の女子用制服を普通に着用しているだけだ。何の変哲もない紺のブレザーとスカートの組み合わせである。この学園では制服の着用義務はなく、服装は基本的に生徒の自由なのだが、女子はなぜか制服を着る者の割合が圧倒的に多い。
「『大きなお世話』……ですか?」
玉郎が大きく首を傾げる。
「──僕は『せわしない』人間だと皆に言われるのですが……」
「え…………。──先輩、それでよく天才やってられますね」
呆れ返った様子の季彩の言葉に、玉郎は照れたように頭をかいた。
「失礼。冗談がスベったようですね。基本的に僕の言葉は真面目に受け取らないでください。──では、ご要望にお応えして空気の重さを戻しましょう」
玉郎が手にしたスマートフォンを操作すると、照明が一気に明るくなった。
「わあ、身体が軽くなった!──あれ?」
「桃高さん。重力制御装置に電力を集中させていたのを元に戻したんですよ」
「ううん。明かりのことじゃなくて、あそこ」
びすかが指差した先には、挑戦部のスケジュール黒板があった。
(修行に行ってくるネ 部長)
黒板の端に走り書きのような文字でそう書かれている。部屋の暗さのせいで、今まで誰も気付かなかったようだ。
「あ! 紅茶郎の奴、またサボりやがった!」
龍が悔しそうに叫ぶ。
「──許せん。そもそも、俺達をここに招集したのはあんにゃろだろうが! 約束の時間までまだ二分あると思っておとなしく待ってりゃ、この裏切り。ひど過ぎる!」
龍に「あんにゃろ」呼ばわりされているのは、挑戦部部長・紅紅茶郎(くれない・こうちゃろう)である。高等部二年生。空手が得意で性格はがさつ。年がら年中、紅茶色のハーフコートを着ている。何かドデカいことに挑戦しようと決意しているものの、未だかつて誰もやっていないことしかやりたくないというひねくれ者のため、まだ挑戦する目標を見つけられないでいる男だ。
とはいえ、いざとなれば、どんなことにでも挑戦できるよう、肉体と精神をあらゆる方向から鍛えまくっている。特に山奥で滝に激しく打たれる修行を好み、他の部員から陰で「SM(修行マニア)の人」と呼ばれていた。
「どうしましょうか。部長なしでは会議なんてできません」
「そうですね。やはり部長がいないと」
季彩が落胆の表情で発した言葉に、玉郎が同調する。
「あんにゃろ、俺達が今何を決めたところで、結局無視して自分の思い通りにしやがるからな。この場にいてくれんと、話は何も進まねえ」
天井を見上げて龍が嘆いた。
「じゃあ、ひとまずティータイムにしませんか? 会議ではなく茶飲み話ということで」
「いいですね、それ」
びすかの提案に玉郎がすかさず飛びつく。続いて残る二人も同意の笑みを見せた。反対するものなどいようはずもない。なぜなら挑戦部全員、お茶や紅茶、ハーブティーの類に目がなかったからである。
そもそも専門分野が全く異なる五人が挑戦部に集結したのは、単に「挑戦」という理念が一致していただけではなかった。元々中等部の頃からの知り合いで、いわゆる茶飲み友達だったことが大きい。かつては全員が中等部の「お茶同好会」に所属しており、一緒に茶話会を楽しんだり、おいしいお茶の入れ方を研究したりする活動を通して、互いをお茶を愛する同志として認め合っていたのだった。
だからこそ。
誰にとっても許せないものがあった。
それが「コーヒー党」。
世の中のお茶と名の付くもの全てとお茶の文化を破壊し、地球上の嗜好飲料をコーヒー一色で塗り潰そうとする悪の秘密組織である。
そんなことをして何になるのか、どんな意味があるのか、それは誰も知らない。だが、現実にコーヒー党は日々猛威を振るい、高度な科学力と、強力な戦闘力を持つメカ怪人を駆使して、お茶やハーブティーを愛する者を恐怖に陥れ続けていた。
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