大きいことはいいこと? (ショート・ストーリー)

たまたまタイミングが悪くて、朝食と昼食を食べそこねてしまった。


 俺は大食らいの食いしん坊。午後八時になった今、ひもじくてひもじくてたまらない。


 腹の虫が餓死してもはやウンともスンともいわないレベルである。

 午後九時。やっと残業が終わった。もう頭の中は食べることだけだ。味は二の次。とにかくガツガツと胃袋に食べ物を詰め込みたい。

 だが、俺はその気持ちをグッと抑え、少し離れた店まで車を走らせた。ここには本当の空腹時にぜひ一度行ってみたかったのだ。


「ジャンボ料理の店・多羅福(たらふく)」












投稿者:クロノイチ


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 ここの料理はとにかくデカイと評判だ。小手調べにメニューの上の方にある三品を注文する。

 店員には 「お一人で大丈夫ですか?」 と訊かれたが、「大丈夫」 と答えた。どうもこの店の料理は大人数で取り分けるのが基本らしい。しかし、空腹の俺に怖いものはない。たかが三品。どんなジャンボ料理でも胃袋に収めてみせる。

 最初にやってきたの は「花火玉」 だった。
 
 しまった。いきなりおにぎりである。しかも本当に花火玉みたいだ。黒々とした海苔で包まれたまん丸のおにぎりに、ご丁寧にカンピョウで導火線までこしらえてある。居酒屋で「バクダン」なるおにぎりを食べたことがあるが、この 「花火玉」 はその何倍も大きい。尺玉クラスだ。
 
 メニューを見直すとこう書いてあった。

「特注で三尺玉まで作ります。中にはカヤクがたっぷり。ウマイ!」

 いやいやウマくないって。おにぎりの具を 「カヤク」 とは言わないだろ。── あれ、でも、そういえば 「かやくご飯」 ってのがあるな。おにぎりとは違うけど、この場合の 「かやく」 は具のことだよな。うーん ……。

 まあ、そんなことはどうでもいい。俺はナイフとフォークで 「花火玉」 を切り分けながら食べた。とてもおにぎりの食べ方とは思えないが、デカ過ぎてかぶりつけないので仕方がない。俺は黙々と食べた。

 次に来たのは 「ざるそば」 である。もちろん特大だ。「どじょうすくい」 に使うような巨大なざるの上にそばがてんこ盛りになっている。またしても炭水化物だ。思わずメニューを見直すと、上から三つめまでは、この店の 「人気料理ベストスリー」 となっていた。後悔しても仕方がないので、ひたすらそばをすすり続ける。

 さすがに飽きた、と思ったところで、でっかいヤカンがテーブルに置かれた。

「そば湯です。そばつゆを割ってお飲みください」
 
 そう言われても……。3リットルはあるよ、これ。
 
 俺はめげそうになった。── まあいい。ちょっと飲んであとは残そう。

 そして、次に運ばれてきたタライのような大皿── その上にあるものを見て俺は絶句した。

「十羽一唐揚げ(じっぱひとからあげ)です」
 
 ニワトリ十羽分の肉に衣を付け、一気に油に投入してひとかたまりにした超特大の唐揚げ。
 
 「十把一絡げ」から思いついただけだろ、これ。絶対に二十人前以上はある。
 
 さすがの俺も一気に食欲が失せ、やっとの思いで四分の一ほど食べたところでギブアップ。

 食べ残しを持ち帰り容器に詰めてもらい、支払いを済ませる。レジの店員さんは、俺が注文の時 「大丈夫です」 と自信タップリに言った相手だった。どうにも気恥ずかしい。
 
 支払い金額はジャスト一万円。ジャンボ料理の店だけあって? 大雑把な値付けである。基本的に食べ放題で一人五千円なのだが、食べ残しがあるとペナルティで一万円になるのだという。どうせ完食できると髙をくくっていたので、その辺の説明はろくすっぽ聞いていなかった。
 
 俺は敗北感でうなだれつつ、一万円を払って店を出た。もう二度と行かない。

 
 さて、肝心の味はどうだったかというと、やはりジャンボ料理の店だけあって、大味である。
 
 満腹にはなったものの満足感はあまりない。せっかく車を飛ばして遠くまできたというのに。


 「でかけりゃいい」 ってもんじゃないな。

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