特大家族 第三章 マケナイデ、ゼッタイカッテ その4 (小説)
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開会三十分前。覇斗と楓は控え室を出て大会会場である大体育室に入った。
スタンドの応援席の一角に、宮城家の人々の姿が見える。結構な人数だった。
いつもの家族の他に覇斗が見たこともない人物も混じっている。楓に尋ねると 「東馬伯父さん」 だという。
毎年、お盆休みを利用して帰省しているのだそうだ。今日は、東京から直接この大会会場にやってきた模様である。
投稿者:クロノイチ
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スタンドの応援席の一角に、宮城家の人々の姿が見える。結構な人数だった。
いつもの家族の他に覇斗が見たこともない人物も混じっている。楓に尋ねると 「東馬伯父さん」 だという。
毎年、お盆休みを利用して帰省しているのだそうだ。今日は、東京から直接この大会会場にやってきた模様である。
投稿者:クロノイチ
二人が応援席にまで挨拶に行くと、たちまちのうちに取り囲まれてしまった。
「よう、お二人さん。どうだい、この会場は。結構、張り込んでみたんだけど、気に入ってくれたかい?」
宮城源太郎が真っ先に近寄ってきて、感想を聞きたがった。
「おじいちゃん、ありがと。最高よ。特に空調が効いているところがいいわ」
「え、それ、この体育館に備え付けで、わし、なんにもしてないんだけど」
「でも、ここを貸し切ってくれたのはおじいちゃんでしょ」
「田舎町の市民体育館なんて、全館貸し切りにしたところで大したお金は掛からんよ」
源太郎は賞賛してほしいところを賞賛してもらえず、拗ね気味である。
「素晴らしい会場をありがとうございます。前回の大会とは雲泥の差です。モニター設備にはびっくりしました」
覇斗はさすがにソツがない。源太郎は満面の笑みを浮かべて言った。
「モニターも凄いけどね、試合を撮影するスタッフもプロなんだよ。きっと迫力ある映像が撮れると思う。それで、この大会の模様は全試合ケーブルテレビで放送されるから。動画サイトにもアップロードしとこうかな」
「いいですね。『南波式指相撲』が子供の遊びでないことを公の場に知らしめるチャンスになりますよ。これで、競技人口が少しでも増えて、愛好者の裾野が広がってくれれば……」
自分でも予想外の言葉が覇斗の口を衝いて出た。
(あれ? なんでこんなアレびいきみたいな台詞がスラスラと出てくるんだ? 知らない間に楓さんの熱意に感化されてしまったのかな)
断じてお追従や迎合の意図はない。覇斗は自分の内面を分析し、心の奥底にあるものを探り出した。
(なるほど。要するに、アレがメジャーな競技になれば、楓さんも変人扱いされずに済むってことか。それを俺は願ってたんだな)
覇斗は内心で苦笑した。いつも楓のことを気に掛けている自分がいる── そのことに初めて思い当たったからである。覇斗が隣にいたはずの楓に視線を送ると、既に彼女はいなかった。いや、近くにはいるのだが、大勢の家族に幾重にも囲まれて姿が見えなくなってしまっている。
当の楓はといえば、家族一人一人から力強い激励を受け、落ち着かない様子でオロオロしていた。ピアノならともかく、よりによって指相撲で、義理ではない本気の応援をされるとは、彼女自身夢にも思わないことだったのだ。
そんな時、七瀬千春子・美晴子姉妹が、楓を囲む人の輪の一番内側に入り込んでくる。
「楓、頑張ってよぉ。必ず優勝してね」
美晴子が祈るような眼差しでそう言った。
「ありがと。頑張るわ。けど、美晴、なんで覇斗君を応援しないの? あんたは絶対そっちの味方だと思ってたのに」
楓が嬉しそうにしながらもそんな疑問を呈すると、美晴子は意表を衝かれた表情で両掌を顔の前で広げ、慌ただしく左右に振った。
「いやあ、モチロン、ハト君も応援してるわよぉ。ホントに。──ただ、どっちか天秤に掛けたら、今回はやっぱ楓の肩を持つのが正解かなって気がしたわけ。家族だしねぇ。それにこの大会で本当に勝ちたいのはぁ、ハト君じゃなくて楓だってこと、よくわかってるから。楓の勝利を祈ってるわぁ」
「美晴……」
人を疑わない楓は美晴子の言葉をそのまま受け取って感動していたが、無論、美晴子の真意は他にある。千春子は傍らで「しゃあしゃあとよく言うわ」といったあきれ顔で美晴子を見ていた。楓が優勝すれば、指相撲を仲介にした楓と覇斗の接点が消える。── そうなるのを待ち望んでいるのが見え見えだったのだ。
ちょっとした立ち話をするつもりで、いつの間にか源太郎の自慢話の聞き役にされてしまっていだ覇斗は、ようやく話の区切りを見つけて脱出に成功した。やれやれと思っていると、背後から彼の名を呼ぶ声がする。
「高柳さん」
涼やかな声に心安らぐものを感じつつ振り向く覇斗の目に、避暑地のお嬢様を思わせる清楚なワンピース姿の平野茉莉花の姿が飛び込んできた。
「あ、茉莉花さん。応援に来てくださったんですか?」
「ええ。いよいよ、本番ですね。楓ちゃんとの名勝負、期待してます」
「どっちが勝つと思います?」
覇斗が訊ねると、茉莉花は乏しい表情の中に微かに困ったような雰囲気を滲ませた。
「執念の差で、楓ちゃんかと。高柳さんには申し訳ありませんが、今回、うちの家族は全員で楓ちゃんを応援します。去年、負けて帰ってきた時、楓ちゃんはこの世の終わりみたいな顔をしていました。もう二度と楓ちゃんにあんな顔はさせたくないんです。ごめんなさい」
「そうですか。気にしないでください。家族が家族を応援するのは当然ですよ」
「ごめんなさい」
茉莉花はよほど気が引けるのか、謝罪の言葉を繰り返した。
「── 楓ちゃんとの試合以外は、高柳さんもちゃんと応援しますから」
「よろしくお願いします」
覇斗がふと茉莉花の肩越しに楓の方を見遣ると、そこには、宮城家からの応援部隊がさらに続々と集結しつつあった。先刻見かけた宮城東馬以外にも、初めて見る顔が幾つもある。遠方に住んでいて覇斗の歓迎会に居合わせなかった家族が、軒並みやってきているのだ。
「あっち、凄いですね。宮城家全員集合ですか?」
驚嘆の思いに駆られるまま、覇斗は茉莉花の後ろを指さし、そう訊ねた。向こうからはついさっきまで宮城みゆきがピースサインをしながら「お兄ちゃーん」と呼び掛けてきていたが、どうやら母親のリツコにたしなめられて引っ込んでしまったらしい。その傍らでは、宮城要が無邪気な笑顔で覇斗の方へ来ようとしているのを、母親の都が力ずくで引き留めている。
覇斗はなんともいえない疎外感と寂しさに包まれた。その分、直接話し掛けてくれた目の前の茉莉花への親近感が増していく。
「ええ。おじいちゃんが呼び掛けたみたいです。入院中の孝行(たかゆき)さん以外は全員来てるんじゃないですか。うちは、なんだかんだで忙しい人が多いですから、これだけ揃ったのは去年の正月以来ですね」
茉莉花が淡々と答える。
「でも、たかだかアレの大会ですよ? ピアノの国際コンクールならわかりますが」
「アレの大会だから集まったんです。楓ちゃんが無我夢中になってのめり込んだ、ピアノよりも何よりも真剣に取り組んでいるアレの、一年にたった一回しかない大会だから……」
その言葉に覇斗は深い感動を覚えた。
(楓さんのアレにはみんな迷惑を被ってきたはずなのに。指相撲という名前さえ、口にしたくないはずなのに。傍から見れば、子供の遊びを仰々しくしただけの大会なのに……。それでも楓さんが大切だから、家族の一大事だから、こうして駆けつけてくるんだ。これが宮城家という家族の在り方か)
覇斗は、祖父が自分を宮城家に託した意味を真に理解できた気がした。
(家族は全体で一つの生き物。自分という存在はその家族を構成するかけがえのない存在。家族のために生きることは、自分のために生きることと等しい。── その思いを自分の心の奥底に根付かせることで、より大きな広がりを持つ自分を、家族の続く限り不滅である自分を生きることができる)
覇斗は、源太郎から聞かされた宮城家の家族観を反芻し、そういうことか、と納得した。
「羨ましい……」
ぽつんと覇斗が漏らした言葉に、茉莉花は照れくさそうに反応した。
「去年は、楓ちゃんが道楽で出ている大会という印象だったので、こんな応援はなかったんですけどね。さすがに今年は意味合いが全然違います。家族の今後にも影響してくることですから」
(家族の今後だって……)
覇斗は打ちのめされたような衝撃を味わった。このちっぽけな指相撲の大会における楓の成績が、なんと、宮城家全体の行く末にまで関わってくるというのである。
(そこまでの、そこまでの絆か、宮城家。なんという連帯。凄い。最高じゃないか。俺もこんな家族が欲しい。こんな家族を作りたい!)
家族に恵まれず、家族の何たるかを祖父を通じてしか知りえなかった覇斗は、遂に宮城家の家族の在りように強い憧れを抱くまでに至った。
ただし。
茉莉花の 「家族の今後に影響」 という言葉は、家族の絆とは程遠い、もっと利己的なところから出てきている。
すなわち。
指相撲に対する楓の病的なまでののめり込みようは、一時期、宮城家の人間にとって大いなる悩みの種だった。覇斗がやってきてからは彼が主たる標的となり、家族は束の間の安らぎを得たが、今度大会で楓が負けたらどうなるか、ということは誰もが不安視せざるをえないところである。もしかしたら、かつて以上のとばっちりを被ることだってありうるのだ。
だが、楓が優勝すれば恐らく全ては丸く収まる。楓は一応の満足を得て、ピアノか勉強のどちらかに打ち込むことになるだろう。だからこそ、楓には是が非でも優勝してもらわなければならなかった。そのためには、一家総出で応援にも来るし、気の利いた言葉で励ましもするのである。
恐らく本当の意味で楓を応援しているのは、元からの指相撲愛好者である源太郎だけではなかっただろうか。
覇斗は、物語にしか存在しないようなほのぼの仲良し大家族を目の当たりにした思いで単純に感動していたが、実のところ、宮城家の結束の裏には、かなり現実的な打算と妥協が入り込んでいるようである。
続く
「よう、お二人さん。どうだい、この会場は。結構、張り込んでみたんだけど、気に入ってくれたかい?」
宮城源太郎が真っ先に近寄ってきて、感想を聞きたがった。
「おじいちゃん、ありがと。最高よ。特に空調が効いているところがいいわ」
「え、それ、この体育館に備え付けで、わし、なんにもしてないんだけど」
「でも、ここを貸し切ってくれたのはおじいちゃんでしょ」
「田舎町の市民体育館なんて、全館貸し切りにしたところで大したお金は掛からんよ」
源太郎は賞賛してほしいところを賞賛してもらえず、拗ね気味である。
「素晴らしい会場をありがとうございます。前回の大会とは雲泥の差です。モニター設備にはびっくりしました」
覇斗はさすがにソツがない。源太郎は満面の笑みを浮かべて言った。
「モニターも凄いけどね、試合を撮影するスタッフもプロなんだよ。きっと迫力ある映像が撮れると思う。それで、この大会の模様は全試合ケーブルテレビで放送されるから。動画サイトにもアップロードしとこうかな」
「いいですね。『南波式指相撲』が子供の遊びでないことを公の場に知らしめるチャンスになりますよ。これで、競技人口が少しでも増えて、愛好者の裾野が広がってくれれば……」
自分でも予想外の言葉が覇斗の口を衝いて出た。
(あれ? なんでこんなアレびいきみたいな台詞がスラスラと出てくるんだ? 知らない間に楓さんの熱意に感化されてしまったのかな)
断じてお追従や迎合の意図はない。覇斗は自分の内面を分析し、心の奥底にあるものを探り出した。
(なるほど。要するに、アレがメジャーな競技になれば、楓さんも変人扱いされずに済むってことか。それを俺は願ってたんだな)
覇斗は内心で苦笑した。いつも楓のことを気に掛けている自分がいる── そのことに初めて思い当たったからである。覇斗が隣にいたはずの楓に視線を送ると、既に彼女はいなかった。いや、近くにはいるのだが、大勢の家族に幾重にも囲まれて姿が見えなくなってしまっている。
当の楓はといえば、家族一人一人から力強い激励を受け、落ち着かない様子でオロオロしていた。ピアノならともかく、よりによって指相撲で、義理ではない本気の応援をされるとは、彼女自身夢にも思わないことだったのだ。
そんな時、七瀬千春子・美晴子姉妹が、楓を囲む人の輪の一番内側に入り込んでくる。
「楓、頑張ってよぉ。必ず優勝してね」
美晴子が祈るような眼差しでそう言った。
「ありがと。頑張るわ。けど、美晴、なんで覇斗君を応援しないの? あんたは絶対そっちの味方だと思ってたのに」
楓が嬉しそうにしながらもそんな疑問を呈すると、美晴子は意表を衝かれた表情で両掌を顔の前で広げ、慌ただしく左右に振った。
「いやあ、モチロン、ハト君も応援してるわよぉ。ホントに。──ただ、どっちか天秤に掛けたら、今回はやっぱ楓の肩を持つのが正解かなって気がしたわけ。家族だしねぇ。それにこの大会で本当に勝ちたいのはぁ、ハト君じゃなくて楓だってこと、よくわかってるから。楓の勝利を祈ってるわぁ」
「美晴……」
人を疑わない楓は美晴子の言葉をそのまま受け取って感動していたが、無論、美晴子の真意は他にある。千春子は傍らで「しゃあしゃあとよく言うわ」といったあきれ顔で美晴子を見ていた。楓が優勝すれば、指相撲を仲介にした楓と覇斗の接点が消える。── そうなるのを待ち望んでいるのが見え見えだったのだ。
ちょっとした立ち話をするつもりで、いつの間にか源太郎の自慢話の聞き役にされてしまっていだ覇斗は、ようやく話の区切りを見つけて脱出に成功した。やれやれと思っていると、背後から彼の名を呼ぶ声がする。
「高柳さん」
涼やかな声に心安らぐものを感じつつ振り向く覇斗の目に、避暑地のお嬢様を思わせる清楚なワンピース姿の平野茉莉花の姿が飛び込んできた。
「あ、茉莉花さん。応援に来てくださったんですか?」
「ええ。いよいよ、本番ですね。楓ちゃんとの名勝負、期待してます」
「どっちが勝つと思います?」
覇斗が訊ねると、茉莉花は乏しい表情の中に微かに困ったような雰囲気を滲ませた。
「執念の差で、楓ちゃんかと。高柳さんには申し訳ありませんが、今回、うちの家族は全員で楓ちゃんを応援します。去年、負けて帰ってきた時、楓ちゃんはこの世の終わりみたいな顔をしていました。もう二度と楓ちゃんにあんな顔はさせたくないんです。ごめんなさい」
「そうですか。気にしないでください。家族が家族を応援するのは当然ですよ」
「ごめんなさい」
茉莉花はよほど気が引けるのか、謝罪の言葉を繰り返した。
「── 楓ちゃんとの試合以外は、高柳さんもちゃんと応援しますから」
「よろしくお願いします」
覇斗がふと茉莉花の肩越しに楓の方を見遣ると、そこには、宮城家からの応援部隊がさらに続々と集結しつつあった。先刻見かけた宮城東馬以外にも、初めて見る顔が幾つもある。遠方に住んでいて覇斗の歓迎会に居合わせなかった家族が、軒並みやってきているのだ。
「あっち、凄いですね。宮城家全員集合ですか?」
驚嘆の思いに駆られるまま、覇斗は茉莉花の後ろを指さし、そう訊ねた。向こうからはついさっきまで宮城みゆきがピースサインをしながら「お兄ちゃーん」と呼び掛けてきていたが、どうやら母親のリツコにたしなめられて引っ込んでしまったらしい。その傍らでは、宮城要が無邪気な笑顔で覇斗の方へ来ようとしているのを、母親の都が力ずくで引き留めている。
覇斗はなんともいえない疎外感と寂しさに包まれた。その分、直接話し掛けてくれた目の前の茉莉花への親近感が増していく。
「ええ。おじいちゃんが呼び掛けたみたいです。入院中の孝行(たかゆき)さん以外は全員来てるんじゃないですか。うちは、なんだかんだで忙しい人が多いですから、これだけ揃ったのは去年の正月以来ですね」
茉莉花が淡々と答える。
「でも、たかだかアレの大会ですよ? ピアノの国際コンクールならわかりますが」
「アレの大会だから集まったんです。楓ちゃんが無我夢中になってのめり込んだ、ピアノよりも何よりも真剣に取り組んでいるアレの、一年にたった一回しかない大会だから……」
その言葉に覇斗は深い感動を覚えた。
(楓さんのアレにはみんな迷惑を被ってきたはずなのに。指相撲という名前さえ、口にしたくないはずなのに。傍から見れば、子供の遊びを仰々しくしただけの大会なのに……。それでも楓さんが大切だから、家族の一大事だから、こうして駆けつけてくるんだ。これが宮城家という家族の在り方か)
覇斗は、祖父が自分を宮城家に託した意味を真に理解できた気がした。
(家族は全体で一つの生き物。自分という存在はその家族を構成するかけがえのない存在。家族のために生きることは、自分のために生きることと等しい。── その思いを自分の心の奥底に根付かせることで、より大きな広がりを持つ自分を、家族の続く限り不滅である自分を生きることができる)
覇斗は、源太郎から聞かされた宮城家の家族観を反芻し、そういうことか、と納得した。
「羨ましい……」
ぽつんと覇斗が漏らした言葉に、茉莉花は照れくさそうに反応した。
「去年は、楓ちゃんが道楽で出ている大会という印象だったので、こんな応援はなかったんですけどね。さすがに今年は意味合いが全然違います。家族の今後にも影響してくることですから」
(家族の今後だって……)
覇斗は打ちのめされたような衝撃を味わった。このちっぽけな指相撲の大会における楓の成績が、なんと、宮城家全体の行く末にまで関わってくるというのである。
(そこまでの、そこまでの絆か、宮城家。なんという連帯。凄い。最高じゃないか。俺もこんな家族が欲しい。こんな家族を作りたい!)
家族に恵まれず、家族の何たるかを祖父を通じてしか知りえなかった覇斗は、遂に宮城家の家族の在りように強い憧れを抱くまでに至った。
ただし。
茉莉花の 「家族の今後に影響」 という言葉は、家族の絆とは程遠い、もっと利己的なところから出てきている。
すなわち。
指相撲に対する楓の病的なまでののめり込みようは、一時期、宮城家の人間にとって大いなる悩みの種だった。覇斗がやってきてからは彼が主たる標的となり、家族は束の間の安らぎを得たが、今度大会で楓が負けたらどうなるか、ということは誰もが不安視せざるをえないところである。もしかしたら、かつて以上のとばっちりを被ることだってありうるのだ。
だが、楓が優勝すれば恐らく全ては丸く収まる。楓は一応の満足を得て、ピアノか勉強のどちらかに打ち込むことになるだろう。だからこそ、楓には是が非でも優勝してもらわなければならなかった。そのためには、一家総出で応援にも来るし、気の利いた言葉で励ましもするのである。
恐らく本当の意味で楓を応援しているのは、元からの指相撲愛好者である源太郎だけではなかっただろうか。
覇斗は、物語にしか存在しないようなほのぼの仲良し大家族を目の当たりにした思いで単純に感動していたが、実のところ、宮城家の結束の裏には、かなり現実的な打算と妥協が入り込んでいるようである。
続く
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