特大家族 第二章 リセットスイッチ その4 (小説)
しばらくして生徒会室に現実の松之進が入ってきた。
松之進は会計である。 「平野家は宮城家の一員であり、宮城家は金持ちであるから、会計を任せても、金に目が眩んで使い込むようなことはしないだろう。これぞ適任」 という学校側の考えによって推薦された。
その考えはある意味確かに合っている。松之進は決して使い込みはしない。
乱暴な口調とは裏腹に、純朴で真面目な男である。
投稿者:クロノイチ
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松之進は会計である。 「平野家は宮城家の一員であり、宮城家は金持ちであるから、会計を任せても、金に目が眩んで使い込むようなことはしないだろう。これぞ適任」 という学校側の考えによって推薦された。
その考えはある意味確かに合っている。松之進は決して使い込みはしない。
乱暴な口調とは裏腹に、純朴で真面目な男である。
投稿者:クロノイチ



── が、適任と言えるほど仕事のできる男でもない。今どき、パソコンのキーボードを人指し指一本で打つ男だった。
しかも、ラグビー部のレギュラーになれたのが嬉しくて、この頃は滅多に生徒会室を訪れることもない。そのため最近は会計の仕事もほとんど覇斗がやっている。
「あれ、まっつん、部活はどうしたの?」
「いつもお前に仕事を押しつけてワリーな。今日は三年生が宿泊学習で部活は自主練なんだ。俺は用があっからって抜けてきた」
「やけに殊勝じゃないか」
「実は姉貴に怒られた。会計に任命された以上は責任持って、あんまりハトに迷惑かけんなってな」
「茉莉花さんがそんなことを? ──まっつん、生徒会のこと茉莉花さんに話してるのか?」
「学校であったことは大概話してるぜ。姉貴の学校の話も聞かせてもらってる。平野家じゃそれが当たり前なんだ。だけど、安心しな。お前がハーレム志向だってことまでは言ってないぜ。鼻の下の溝アレルギーのこともな」
「それ、もしかして恩に着せてる?」
「いや、脅しだ。ククク、俺に逆らったらどうなるか……」
松之進はほんの束の間邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、すぐさまオタオタしながら「冗談、冗談だから」と自分の言葉を取り消した。ジョークの一つも完成しきれないヘタレである。もうちょっと間を開けて「なあんちゃって」と言うだけでよかったのに、と覇斗も苦笑いを禁じえない。
「じゃあ、まっつん、せっかく来たんだ。仕事するか?」
「おう。任せとけ」
ドンと力強く、松之進が自分の胸を叩いた。懐かしい感じのするリアクションである。
「なら、気晴らしに付き合ってくれよ。今まで面白くもない仕事をずっとやってて、ちょうど息抜きをしたい気分だったんだ」
「なんだい。そんなんでいいのか。何すりゃいい?」
「ジャンケンでもしようか」
「ジャンケンだって? なんでまた……」
松之進は不可解な面持ちで言った。
「さっきジャンケンの必勝法を思いついたんだ。必勝法っていうのも色々あって、『僕は今度グーを出す』とか『君はチョキを出すつもりだな』とか言いながら、相手の反応を読んだり、出す手を誘導したりする心理学的戦法、それからチョキの出しにくさ、グーやパーの出しやすさなんかを考慮しつつ統計学的に勝つ確率の高い手を出す論理的戦法なんかがあるけど、僕の必勝法は動体視力にかかってくるやり方だ。相手の手の動きを見て、即座にこっちの手を決める」
「そりゃ、誰でも考えるこったが、ゼッテー無理だぜ」
「まあ、やってみようか」
「よっしゃ、行くぜ。── ジャンケン、ポン。あいこで、しょ。ジャンケン、ポン。ジャンケン、ポン」
四回やって、あいこが一回。後は、全部松之進が勝った。
「俺の勝ちぃ。なんだかあらゆる分野を通じて、初めてハトに勝った気がするぜ」
「僕は初めて負けた気がする」
「やっぱ、無理だぜ。俺が何を出すかきっちり見極めた上で、後出しにならないように手を出すんだろ?」
「でも、結構見えてたんだ。見えてたんだけど、あと一歩のところで反応できなかった。もう一度頼む」
「ああいいぜ」
今度は五回やって三回あいこ。松之進と覇斗が一回ずつ勝った。
「どうやら、僕もまだまだだな。そういや、動体視力の訓練は最近やってなかった。あとほんの一瞬だけ早く手を見極められたらな」
「見極めたって、それから自分の手を作るんじゃ、間に合わんだろ」
「僕の必勝法の肝はまさしくそこにある。まあ聞いてくれ」
覇斗は自信ありげに両手を胸の前で組み合わせ、机に両肘をついた。
「── まず、動体視力を使う必勝法としては、相手の出す手に変化が見えたらチョキを出し、そうでなかったらパーを出すというものがある。マンガやネットで度々取り上げられてるから、そこそこの認知度はあるだろうな。相手の手に動きがあるということは、それはチョキかパーということだから、負けないためにはチョキを出せばいい。動きがなければグーだからこっちはパーを出せば勝てる」
「お、確かにそうだ。じゃ、動体視力、鍛えたもん勝ちじゃねえか」
松之進は「凄い知識を仕入れた」と思ったのか、興奮気味に言った。
「だけど、落とし穴がある。こっちはあまり知られていない。フェイントに弱いんだ。手を変化させると見せかけてグーを出されたら、一巻の終わりさ」
「そっかあ。一瞬の勝負だから、引っかかりやすいな」
「ああ。それで僕は考えた。本当のギリギリのギリギリまで、相手が何を出すかはっきりするまでしっかりと待ってから、手を出せばどうかって」
「おいおい、それじゃ、どうしたって後出しになるじゃねえか」
即座に松之進が突っ込んだ。
「ならない方法を考えたのさ」
「後出しにならない方法?」
「うん。厳密にいえば、後出しに見えない後出しの方法だね」
「そんなんあるんか?」
「ある。──それには最初、自分は絶対にパーを出すと決めておくことが肝心だ。パー以外の手を意識すらしない。相手の手が動かなければそのままパーを出して勝ちだ」
「なんでパーなんかわからんが、まあ、相手がグーなら勝てるわな」
「次に相手の手がパーになったとする。その時も出すのはパーだ。あいこでいいんだよ。無理にチョキにしようとしても恐らく間に合わない。パーが作りやすい手であること、パーを出すことを予め意識づけておくこと、実際に拳を少し開き加減にしておくこと。この三つによってやっと後出しに見えないパーを出せる。さっき、一回だけ成功したよ」
「もう、できかけてんのかよ。スゲーな」
松之進が目をキラキラと輝かせる。──だが、次の瞬間、首をひねった。
「じゃあ、相手がチョキを出してきた時、どうすんだ?」
当然の疑問に、覇斗は不敵な笑みで応じた。
「意識してグーを出そうとすると却って混乱するだろうな。何しろこっちは絶対にパーを出すと決めてるんだから」
「パーじゃ負けるだろ?」
「だから、パーを出すのを止める。それだけでいい」
「おおっ」
松之進は目を見開いて感動の声を上げた。
「パーを出すのを止めたら、そのままグーじゃねえか! スゲー、ハトスゲー!」
「しばらく動体視力と条件反射を鍛え続けたら、この必勝法、なんとかものにできるんじゃないかな」
こともなげに言う覇斗を見て、松之進は慨嘆した。
「お前、本当にいろんな才能持ってんな。うらやましいぜ」
「僕自身はまだまだだと思ってる。何かをなし遂げて満足したってことがまだないしね」
「なあ、お前の一番得意なことってなんだ?」
不意に問われて覇斗が首を傾げた。
「なんだろう? あらゆる方面の基礎訓練をひたすら地道に続けることかな。それが僕の全ての技能の土台を作ってるからね」
「もし、本当の自分の適性が知りたくなったら、俺の母ちゃんに聞くといいぜ」
「おばちゃんに?」
覇斗は 「おばちゃん」と いう愛称を持つ、ちょっと太めで気っぷのいい元気なおばさんを思い浮かべた。その人──平野南花は北陸ではかなり高名な占い師であり、「マダム・サザンカ」 の名で地方紙にコラムも書いている。松之進の話によれば、占いは大して当たらないのだが、外れても当たったかのように思わせる話術が巧みらしい。加えて相談者の悩みを引き出して普通の人生相談に持ち込み、そこで的確なアドバイスをすることで、相談者の満足度を一気にアップさせる必殺技も持っているそうだ。
覇斗にとっては、晴れた日の朝に庭で布団たたきをしていたり、うさん臭い訪問販売を、威勢のいい啖呵で追い返したりしている 「おばちゃん」 こそが南花であり、それ以外の姿は想像もできない。
「あ、占ってもらえってんじゃないぜ。お前、確か迷信や占いの類は意地でも信じないんだったな」
「うん。自分のことを決めるのに、判断の基準をよそに求めるのは好きじゃないんだ」
「それだったら大丈夫。母ちゃんは本当のことを一個、言うだけだ。助言もしなければ解説もしねえ。現時点でのお前の中の一番ポテンシャルの高い能力、表に出てるか潜在してるかに関係なく、とにかくお前の中の一番凄い能力を母ちゃんは言い当てることができる」
「それ、初耳。占いじゃなけりゃなんなの」
「生まれつきの力だってよ。楓のピアノの才能もピタリと言い当てたんだぜ。ま、騙されたと思って聞いて見ろや。母ちゃんは別に結果を押しつけはしねえ。信じる信じないはハトの自由だ」
覇斗は松之進の話を鵜呑みにする気にはなれなかった。百歩譲って超能力の存在を認めたとしても、「その人が持てる最高の能力を言い当てる能力」 など、変わり種過ぎて到底あるようには思えない。楓のことだって、偶然という言葉で片付けることができる。しかし、松之進が恐ろしいくらいの真顔をしているのが気になった。母親の能力を信じきっている顔である。
「まっつんの最高の能力はなんだった? 教えてもらったんだろ?」
軽い口調で試しに尋ねてみると、松太郎は口ごもり気味にこう答えた。
「短距離走だとよ。百メートル十二秒四。── 高一としちゃ、まあまあ速いと思うよ。思うけどさ、これが俺の最高能力だとしたら、俺って結構ショボくね?」
「そうだな。僕より一秒遅いし」
うっかりトドメを刺してしまう覇斗であった。
続く
しかも、ラグビー部のレギュラーになれたのが嬉しくて、この頃は滅多に生徒会室を訪れることもない。そのため最近は会計の仕事もほとんど覇斗がやっている。
「あれ、まっつん、部活はどうしたの?」
「いつもお前に仕事を押しつけてワリーな。今日は三年生が宿泊学習で部活は自主練なんだ。俺は用があっからって抜けてきた」
「やけに殊勝じゃないか」
「実は姉貴に怒られた。会計に任命された以上は責任持って、あんまりハトに迷惑かけんなってな」
「茉莉花さんがそんなことを? ──まっつん、生徒会のこと茉莉花さんに話してるのか?」
「学校であったことは大概話してるぜ。姉貴の学校の話も聞かせてもらってる。平野家じゃそれが当たり前なんだ。だけど、安心しな。お前がハーレム志向だってことまでは言ってないぜ。鼻の下の溝アレルギーのこともな」
「それ、もしかして恩に着せてる?」
「いや、脅しだ。ククク、俺に逆らったらどうなるか……」
松之進はほんの束の間邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、すぐさまオタオタしながら「冗談、冗談だから」と自分の言葉を取り消した。ジョークの一つも完成しきれないヘタレである。もうちょっと間を開けて「なあんちゃって」と言うだけでよかったのに、と覇斗も苦笑いを禁じえない。
「じゃあ、まっつん、せっかく来たんだ。仕事するか?」
「おう。任せとけ」
ドンと力強く、松之進が自分の胸を叩いた。懐かしい感じのするリアクションである。
「なら、気晴らしに付き合ってくれよ。今まで面白くもない仕事をずっとやってて、ちょうど息抜きをしたい気分だったんだ」
「なんだい。そんなんでいいのか。何すりゃいい?」
「ジャンケンでもしようか」
「ジャンケンだって? なんでまた……」
松之進は不可解な面持ちで言った。
「さっきジャンケンの必勝法を思いついたんだ。必勝法っていうのも色々あって、『僕は今度グーを出す』とか『君はチョキを出すつもりだな』とか言いながら、相手の反応を読んだり、出す手を誘導したりする心理学的戦法、それからチョキの出しにくさ、グーやパーの出しやすさなんかを考慮しつつ統計学的に勝つ確率の高い手を出す論理的戦法なんかがあるけど、僕の必勝法は動体視力にかかってくるやり方だ。相手の手の動きを見て、即座にこっちの手を決める」
「そりゃ、誰でも考えるこったが、ゼッテー無理だぜ」
「まあ、やってみようか」
「よっしゃ、行くぜ。── ジャンケン、ポン。あいこで、しょ。ジャンケン、ポン。ジャンケン、ポン」
四回やって、あいこが一回。後は、全部松之進が勝った。
「俺の勝ちぃ。なんだかあらゆる分野を通じて、初めてハトに勝った気がするぜ」
「僕は初めて負けた気がする」
「やっぱ、無理だぜ。俺が何を出すかきっちり見極めた上で、後出しにならないように手を出すんだろ?」
「でも、結構見えてたんだ。見えてたんだけど、あと一歩のところで反応できなかった。もう一度頼む」
「ああいいぜ」
今度は五回やって三回あいこ。松之進と覇斗が一回ずつ勝った。
「どうやら、僕もまだまだだな。そういや、動体視力の訓練は最近やってなかった。あとほんの一瞬だけ早く手を見極められたらな」
「見極めたって、それから自分の手を作るんじゃ、間に合わんだろ」
「僕の必勝法の肝はまさしくそこにある。まあ聞いてくれ」
覇斗は自信ありげに両手を胸の前で組み合わせ、机に両肘をついた。
「── まず、動体視力を使う必勝法としては、相手の出す手に変化が見えたらチョキを出し、そうでなかったらパーを出すというものがある。マンガやネットで度々取り上げられてるから、そこそこの認知度はあるだろうな。相手の手に動きがあるということは、それはチョキかパーということだから、負けないためにはチョキを出せばいい。動きがなければグーだからこっちはパーを出せば勝てる」
「お、確かにそうだ。じゃ、動体視力、鍛えたもん勝ちじゃねえか」
松之進は「凄い知識を仕入れた」と思ったのか、興奮気味に言った。
「だけど、落とし穴がある。こっちはあまり知られていない。フェイントに弱いんだ。手を変化させると見せかけてグーを出されたら、一巻の終わりさ」
「そっかあ。一瞬の勝負だから、引っかかりやすいな」
「ああ。それで僕は考えた。本当のギリギリのギリギリまで、相手が何を出すかはっきりするまでしっかりと待ってから、手を出せばどうかって」
「おいおい、それじゃ、どうしたって後出しになるじゃねえか」
即座に松之進が突っ込んだ。
「ならない方法を考えたのさ」
「後出しにならない方法?」
「うん。厳密にいえば、後出しに見えない後出しの方法だね」
「そんなんあるんか?」
「ある。──それには最初、自分は絶対にパーを出すと決めておくことが肝心だ。パー以外の手を意識すらしない。相手の手が動かなければそのままパーを出して勝ちだ」
「なんでパーなんかわからんが、まあ、相手がグーなら勝てるわな」
「次に相手の手がパーになったとする。その時も出すのはパーだ。あいこでいいんだよ。無理にチョキにしようとしても恐らく間に合わない。パーが作りやすい手であること、パーを出すことを予め意識づけておくこと、実際に拳を少し開き加減にしておくこと。この三つによってやっと後出しに見えないパーを出せる。さっき、一回だけ成功したよ」
「もう、できかけてんのかよ。スゲーな」
松之進が目をキラキラと輝かせる。──だが、次の瞬間、首をひねった。
「じゃあ、相手がチョキを出してきた時、どうすんだ?」
当然の疑問に、覇斗は不敵な笑みで応じた。
「意識してグーを出そうとすると却って混乱するだろうな。何しろこっちは絶対にパーを出すと決めてるんだから」
「パーじゃ負けるだろ?」
「だから、パーを出すのを止める。それだけでいい」
「おおっ」
松之進は目を見開いて感動の声を上げた。
「パーを出すのを止めたら、そのままグーじゃねえか! スゲー、ハトスゲー!」
「しばらく動体視力と条件反射を鍛え続けたら、この必勝法、なんとかものにできるんじゃないかな」
こともなげに言う覇斗を見て、松之進は慨嘆した。
「お前、本当にいろんな才能持ってんな。うらやましいぜ」
「僕自身はまだまだだと思ってる。何かをなし遂げて満足したってことがまだないしね」
「なあ、お前の一番得意なことってなんだ?」
不意に問われて覇斗が首を傾げた。
「なんだろう? あらゆる方面の基礎訓練をひたすら地道に続けることかな。それが僕の全ての技能の土台を作ってるからね」
「もし、本当の自分の適性が知りたくなったら、俺の母ちゃんに聞くといいぜ」
「おばちゃんに?」
覇斗は 「おばちゃん」と いう愛称を持つ、ちょっと太めで気っぷのいい元気なおばさんを思い浮かべた。その人──平野南花は北陸ではかなり高名な占い師であり、「マダム・サザンカ」 の名で地方紙にコラムも書いている。松之進の話によれば、占いは大して当たらないのだが、外れても当たったかのように思わせる話術が巧みらしい。加えて相談者の悩みを引き出して普通の人生相談に持ち込み、そこで的確なアドバイスをすることで、相談者の満足度を一気にアップさせる必殺技も持っているそうだ。
覇斗にとっては、晴れた日の朝に庭で布団たたきをしていたり、うさん臭い訪問販売を、威勢のいい啖呵で追い返したりしている 「おばちゃん」 こそが南花であり、それ以外の姿は想像もできない。
「あ、占ってもらえってんじゃないぜ。お前、確か迷信や占いの類は意地でも信じないんだったな」
「うん。自分のことを決めるのに、判断の基準をよそに求めるのは好きじゃないんだ」
「それだったら大丈夫。母ちゃんは本当のことを一個、言うだけだ。助言もしなければ解説もしねえ。現時点でのお前の中の一番ポテンシャルの高い能力、表に出てるか潜在してるかに関係なく、とにかくお前の中の一番凄い能力を母ちゃんは言い当てることができる」
「それ、初耳。占いじゃなけりゃなんなの」
「生まれつきの力だってよ。楓のピアノの才能もピタリと言い当てたんだぜ。ま、騙されたと思って聞いて見ろや。母ちゃんは別に結果を押しつけはしねえ。信じる信じないはハトの自由だ」
覇斗は松之進の話を鵜呑みにする気にはなれなかった。百歩譲って超能力の存在を認めたとしても、「その人が持てる最高の能力を言い当てる能力」 など、変わり種過ぎて到底あるようには思えない。楓のことだって、偶然という言葉で片付けることができる。しかし、松之進が恐ろしいくらいの真顔をしているのが気になった。母親の能力を信じきっている顔である。
「まっつんの最高の能力はなんだった? 教えてもらったんだろ?」
軽い口調で試しに尋ねてみると、松太郎は口ごもり気味にこう答えた。
「短距離走だとよ。百メートル十二秒四。── 高一としちゃ、まあまあ速いと思うよ。思うけどさ、これが俺の最高能力だとしたら、俺って結構ショボくね?」
「そうだな。僕より一秒遅いし」
うっかりトドメを刺してしまう覇斗であった。
続く
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