特大家族 第二章 リセットスイッチ その1 (小説)
六月十一日(火)
宮城家の朝は午前五時より始まる。三階の仏間に家族全員が集合し、お参りするのだ。
つまり各自の起床はそれより前ということである。
この仏間は、かつて 「あかりや荘」 が法事の団体客を呼ぶために、旧大宴会場の隣に作ったものだ。
どの宗派の法事にも対応できるよう、仏壇を置いておらず、大きな台の上に燭台と花瓶と香炉を置き、後は宗派ごとに大きく異なる本尊や仏具をその時々で交換して設置する造りになっていた。
宮城家は代々阿弥陀如来を本尊とする宗教を信仰していたが、ミヤシロ電機の創業者である先々代の当主が一風変わった思想の持ち主で、その代から信仰の対象である本尊が別のものに置き換わっている。
投稿者:クロノイチ
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宮城家の朝は午前五時より始まる。三階の仏間に家族全員が集合し、お参りするのだ。
つまり各自の起床はそれより前ということである。
この仏間は、かつて 「あかりや荘」 が法事の団体客を呼ぶために、旧大宴会場の隣に作ったものだ。
どの宗派の法事にも対応できるよう、仏壇を置いておらず、大きな台の上に燭台と花瓶と香炉を置き、後は宗派ごとに大きく異なる本尊や仏具をその時々で交換して設置する造りになっていた。
宮城家は代々阿弥陀如来を本尊とする宗教を信仰していたが、ミヤシロ電機の創業者である先々代の当主が一風変わった思想の持ち主で、その代から信仰の対象である本尊が別のものに置き換わっている。
投稿者:クロノイチ



本尊の掛け軸の前で宮城源太郎が、灯を点した和ろうそくを燭台に刺した。一本の線香を四つに折って火をつけ、香炉に寝かせるように置く。
「合掌」
源太郎の声とともに家族全員が合掌する。次いで源太郎は、本尊の掛け軸の中に掛かれた漢字を読み始めた。
「南無宮城家先祖累代、帰命宮城家子々孫々」
全員がそれを唱和する。
(先祖崇拝はよく聞くけど、自分達の子孫まで拝む対象にするなんて、この家だけなんじゃないかな)
高柳覇斗はそんな感慨を抱きながら、皆と一緒に口を動かしていた。宮城家の一員でもない覇斗がここにいるのには理由がある。 「覇斗に家族の素晴らしさを知ってほしい」 という亡き祖父の願いを果たすヒントが、毎朝のお参りの中にあるかもしれないと直感したからだ。それでお参りの最中、仏間の隅に座ることを源太郎に許してもらったのである。
本尊の左には源太郎の先祖代々の家系図の軸が掛けられ、右には宮城家の昔からの本尊だった阿弥陀如来の絵像が掛けられていた。源太郎は、妻の月命日には必ず近所の僧侶に読経を依頼しているが、その僧侶はこの仏間に来ると、決まって何か言いたそうな複雑な顔をする。しかし、毎度毎度の巨額のお布施をフイにしたくないためか、結局は何も言わずにお布施の入った封筒を押しいただいて帰って行くのだった。
宮城家の本尊の由来は、先々代の当主が遺した「家訓」にある。その家訓が、現在に至るまで宮城家一人一人の人生観や家族観に多大な影響を及ぼしてきたのである。
すなわち、
「人の生命はその人一人で完結するものではない。人の生命は、先祖より受け継がれ子孫へと至る『家族』という名の、より大きな生物の一部として機能するものだ」
「『家族』 こそ、永遠に生きたいという本能を持つ人間にとって、その願いを仮に叶える大いなる依代である」
「『家族』 こそ人の安らぎである。たった一度の失敗がその者の人生を破壊することがあるが、『家族』 という大いなる自分を持つ者は、『家族』 のために生きるという目的意識があるため、絶望することなく生き続けることができる」
といったことが古めかしい文体で延々と書かれている代物だった。
家族を持たない自分は出来損ないの生物なのか、と冗談めかして覇斗は以前、源太郎に訊ねたことがある。源太郎は即座に否定した。
「覇斗君ならこの先、幾らでも家族は作れるさ。でも、仮に家族というものに縁がなかったとしても、自分に合った別の概念を見つければ済むことなんだ。要するに、自分一代限りの人生という枠を越えた、ずっと大きな生き方をするために、自分をより大きな生命の一部と自覚することが必要だってことさ」
「あんまりピンと来ませんが……」
覇斗が申し訳なさそうに言うと、源太郎は思案しながらこう言い添えた。
「例えば、わしの命は先祖の誰か一人が欠けても成り立たなかった命だ。わしにとっては、先祖の一人一人がかけがえのない人間。同時にこのわしの命も、子孫にとってはかけがえのないものだ。先祖から子孫に繋がる『宮城家』という名の大いなる生命──それを構成する替えの利かない一点がわしなんだよ。そう認識すれば、わしという存在は、死んだ後も家族という大きな生命の中でずっと生き続けることができる。そして、本当の意味で家族のために生きることも可能になるのさ。家族のために生きることが自分のために生きることと同じ意味になるんだからね」
「家族がない者は別の似たような概念を持ってくればいいということですか。自分がその中でかけがえのない存在だと自覚できるような、しかも自分を包み込み、自分の死後もずっと存在し続けるような何かを」
覇斗は自分の立場から源太郎の言葉を解釈し、確認を求めた。
「そんなとこだね。家族の代わりに郷土でも所属団体でも日本でも地球でも宇宙でもイデオロギーでも、それこそ昔からある神とか仏とかの概念でもなんでもいいんじゃないかな。自分の中でピンとくるもんがあればね。──宮城家が家族にこだわるのは、わしらにとって最も身近でわかりやすい大きな生命が『家族』だったというだけのこった」
「なるほど」
「人間の一生をその人間一代で完結するものとすると、せせこましい生き方しかできん。小さな利益にこだわり、失敗を恐れ、ちょっとしたことで絶望する。宮城家の家訓は、そんな小さな生き方から脱却して、幸せに生きるための智慧だよ」
「宮城家の人は、いつもそんなことを考えながら生きてるんですか?」
「いやいや、まさか。そんなことはないよ。わしも普段は自分のことばかり考えて好き勝手やってる。他の家族もそうだろう。今まで言ってきたのは、『ワラ』だ」
「『ワラ』?」
「『溺れる者は藁をも掴む』の『藁』だよ。どうしようもなく絶望しそうになった時、あるいは、どうしようもなく深い悩みに囚われた時──そんな時に掴む小さな『藁』さ。その程度のもんなんだがね、元から『藁』を持たなけりゃ、いざという時、掴む物が何もないってことになる。だから心の片隅には置いておかにゃならん。そしたら本当に必要な時、苦しい時に、きちんと掴まれてくれるのさ」
(辛い状況に陥った時、自分という存在を別角度から見て、別の定義で捉え直すことで、それまでの自分を縛っていたものから解放され、楽になれるってことか)
覇斗は、源太郎の言葉を意訳してそんなふうに理解した。その考えは覇斗の心に思いのほか馴染んだ。いや既に馴染んでいたものだったかもしれない。覇斗は、自分の在りように深い影響をもたらした例の素晴らしい風景を思い起こし、穏やかな気分になった。
宮城家の朝食は午前六時。ブッフェスタイルである。品数はそれほど多くない。専業主婦の宮城都と数人の居候以外は皆、朝は色々と忙しく、都にしても息子の要の世話があるため、厨房の方に長くいられない事情がある。
覇斗は夕食時の仲間と一緒に食事をとった。彼の朝食は大概トーストとコーヒー、牛乳とリンゴという軽いものだが、今日はなめこの味噌汁があったのでそれをタップリとお椀に盛る。彼はなめこには特別目がなかった。
覇斗は大抵の物事はなんでも大らかに受け入れ、不平不満を言わないタイプなので、物に対する好き嫌いは特にないと思われがちである。しかし、彼も人の子であって、非常に好きな物も、どうしても好きになれないものもちゃんと存在する。大好物はクラゲとなめことナマコ。食感が好きなのだ。
どうしても好きになれないものというのは、実は食べ物ではない。これは、それ自体になんの罪もなく、自分の感覚がおかしいのだと、覇斗自身強く自覚している。けれども、どうしようもなく苦手なのである。
それは、「鼻の下の溝が深い人」だった。なぜそうなってしまったのか理由は自分でもわからない。ゆえに治しようもなかった。ただ、あるレベルを越えて幅が狭く深い、そんな鼻の下の溝を見ると、瞬時に寒気がして、顔を背けずにはいられなくなってしまうのだ。世間でどれだけ美人と謳われる女性であっても、鼻の下の溝が深いというだけで、覇斗基準で最低ランクの評価に落ちてしまうことは避けられない。
中学時代、覇斗はその手の女子に告白を受けたことがある。校内最高の美人と評判のクラスメイトで、性格も成績も人望も申し分なく、彼自身、相手の人となりには好感を抱いていた。しかし、告白され真正面から相手の顔を見た時、そこにある三角刀で彫ったような鼻の下の溝に対し、絶望的に受け入れられないものを感じ、即座に拒絶してしまったのだ。
覇斗もすぐさま詫びやフォローを入れたが、断った本当の理由だけは言い出せずじまいだった。従って相手を納得させられるはずもなく、結局、双方にとって辛く気まずい思いだけが残ったのである。
それからというもの、覇斗に告白しようとする女子は皆無となった。「あの人でさえあっさり振られたのに、私なんてとても無理だわ」と、皆、のっけから諦めてしまったのだ。そして、ナルシストなのではないか、男の方が好きなのではないかという噂が彼に付きまとうことになる。
覇斗は、たかが顔の溝一本のことで相手の心に傷を負わせてしまったことへの罪悪感から、敢えて何も言い訳せずに中学時代を過ごした。だが、彼は断じてゲイやオカマの類ではない。健全な男子として普通に女性が好きなのだ。ナルシストでもない。なぜなら彼の鼻の下の溝もどちらかというと深い方に属するからである。彼は、周りから「カッコいい」「イケメン」と言われるたびに「この顔のどこが?」と反発する気持ちを抱き続けてきたのだった。
現在、覇斗の身近に、どうしても受け付けないレベルの鼻の下の溝の持ち主はいない。唯一、宮城楓らの母親であるリツコだけは、ぎりぎり許容範囲というところに位置していた。一般的に見る限り妖艶なグラマー熟女であるところのリツコは、あまり視線を合わせようとしない彼を「ウブでシャイな子」と評している。
続く
第二章開始しました。のっけから宗教っぽくてすみません。数世帯がひとつところに住む拡大家族が、ずっと仲良くやっていくための精神的バックボーンがほしくて、こんな設定にしました。
あと、よくある不自然設定ですが、イケメンで完璧超人なのにかつて一度も彼女ができたことのないというアレに、なんとかリアリティを持たせるべく、主人公に変な属性を持たせてみました。とにかく色々実験しています。
──ではまた。
「合掌」
源太郎の声とともに家族全員が合掌する。次いで源太郎は、本尊の掛け軸の中に掛かれた漢字を読み始めた。
「南無宮城家先祖累代、帰命宮城家子々孫々」
全員がそれを唱和する。
(先祖崇拝はよく聞くけど、自分達の子孫まで拝む対象にするなんて、この家だけなんじゃないかな)
高柳覇斗はそんな感慨を抱きながら、皆と一緒に口を動かしていた。宮城家の一員でもない覇斗がここにいるのには理由がある。 「覇斗に家族の素晴らしさを知ってほしい」 という亡き祖父の願いを果たすヒントが、毎朝のお参りの中にあるかもしれないと直感したからだ。それでお参りの最中、仏間の隅に座ることを源太郎に許してもらったのである。
本尊の左には源太郎の先祖代々の家系図の軸が掛けられ、右には宮城家の昔からの本尊だった阿弥陀如来の絵像が掛けられていた。源太郎は、妻の月命日には必ず近所の僧侶に読経を依頼しているが、その僧侶はこの仏間に来ると、決まって何か言いたそうな複雑な顔をする。しかし、毎度毎度の巨額のお布施をフイにしたくないためか、結局は何も言わずにお布施の入った封筒を押しいただいて帰って行くのだった。
宮城家の本尊の由来は、先々代の当主が遺した「家訓」にある。その家訓が、現在に至るまで宮城家一人一人の人生観や家族観に多大な影響を及ぼしてきたのである。
すなわち、
「人の生命はその人一人で完結するものではない。人の生命は、先祖より受け継がれ子孫へと至る『家族』という名の、より大きな生物の一部として機能するものだ」
「『家族』 こそ、永遠に生きたいという本能を持つ人間にとって、その願いを仮に叶える大いなる依代である」
「『家族』 こそ人の安らぎである。たった一度の失敗がその者の人生を破壊することがあるが、『家族』 という大いなる自分を持つ者は、『家族』 のために生きるという目的意識があるため、絶望することなく生き続けることができる」
といったことが古めかしい文体で延々と書かれている代物だった。
家族を持たない自分は出来損ないの生物なのか、と冗談めかして覇斗は以前、源太郎に訊ねたことがある。源太郎は即座に否定した。
「覇斗君ならこの先、幾らでも家族は作れるさ。でも、仮に家族というものに縁がなかったとしても、自分に合った別の概念を見つければ済むことなんだ。要するに、自分一代限りの人生という枠を越えた、ずっと大きな生き方をするために、自分をより大きな生命の一部と自覚することが必要だってことさ」
「あんまりピンと来ませんが……」
覇斗が申し訳なさそうに言うと、源太郎は思案しながらこう言い添えた。
「例えば、わしの命は先祖の誰か一人が欠けても成り立たなかった命だ。わしにとっては、先祖の一人一人がかけがえのない人間。同時にこのわしの命も、子孫にとってはかけがえのないものだ。先祖から子孫に繋がる『宮城家』という名の大いなる生命──それを構成する替えの利かない一点がわしなんだよ。そう認識すれば、わしという存在は、死んだ後も家族という大きな生命の中でずっと生き続けることができる。そして、本当の意味で家族のために生きることも可能になるのさ。家族のために生きることが自分のために生きることと同じ意味になるんだからね」
「家族がない者は別の似たような概念を持ってくればいいということですか。自分がその中でかけがえのない存在だと自覚できるような、しかも自分を包み込み、自分の死後もずっと存在し続けるような何かを」
覇斗は自分の立場から源太郎の言葉を解釈し、確認を求めた。
「そんなとこだね。家族の代わりに郷土でも所属団体でも日本でも地球でも宇宙でもイデオロギーでも、それこそ昔からある神とか仏とかの概念でもなんでもいいんじゃないかな。自分の中でピンとくるもんがあればね。──宮城家が家族にこだわるのは、わしらにとって最も身近でわかりやすい大きな生命が『家族』だったというだけのこった」
「なるほど」
「人間の一生をその人間一代で完結するものとすると、せせこましい生き方しかできん。小さな利益にこだわり、失敗を恐れ、ちょっとしたことで絶望する。宮城家の家訓は、そんな小さな生き方から脱却して、幸せに生きるための智慧だよ」
「宮城家の人は、いつもそんなことを考えながら生きてるんですか?」
「いやいや、まさか。そんなことはないよ。わしも普段は自分のことばかり考えて好き勝手やってる。他の家族もそうだろう。今まで言ってきたのは、『ワラ』だ」
「『ワラ』?」
「『溺れる者は藁をも掴む』の『藁』だよ。どうしようもなく絶望しそうになった時、あるいは、どうしようもなく深い悩みに囚われた時──そんな時に掴む小さな『藁』さ。その程度のもんなんだがね、元から『藁』を持たなけりゃ、いざという時、掴む物が何もないってことになる。だから心の片隅には置いておかにゃならん。そしたら本当に必要な時、苦しい時に、きちんと掴まれてくれるのさ」
(辛い状況に陥った時、自分という存在を別角度から見て、別の定義で捉え直すことで、それまでの自分を縛っていたものから解放され、楽になれるってことか)
覇斗は、源太郎の言葉を意訳してそんなふうに理解した。その考えは覇斗の心に思いのほか馴染んだ。いや既に馴染んでいたものだったかもしれない。覇斗は、自分の在りように深い影響をもたらした例の素晴らしい風景を思い起こし、穏やかな気分になった。
宮城家の朝食は午前六時。ブッフェスタイルである。品数はそれほど多くない。専業主婦の宮城都と数人の居候以外は皆、朝は色々と忙しく、都にしても息子の要の世話があるため、厨房の方に長くいられない事情がある。
覇斗は夕食時の仲間と一緒に食事をとった。彼の朝食は大概トーストとコーヒー、牛乳とリンゴという軽いものだが、今日はなめこの味噌汁があったのでそれをタップリとお椀に盛る。彼はなめこには特別目がなかった。
覇斗は大抵の物事はなんでも大らかに受け入れ、不平不満を言わないタイプなので、物に対する好き嫌いは特にないと思われがちである。しかし、彼も人の子であって、非常に好きな物も、どうしても好きになれないものもちゃんと存在する。大好物はクラゲとなめことナマコ。食感が好きなのだ。
どうしても好きになれないものというのは、実は食べ物ではない。これは、それ自体になんの罪もなく、自分の感覚がおかしいのだと、覇斗自身強く自覚している。けれども、どうしようもなく苦手なのである。
それは、「鼻の下の溝が深い人」だった。なぜそうなってしまったのか理由は自分でもわからない。ゆえに治しようもなかった。ただ、あるレベルを越えて幅が狭く深い、そんな鼻の下の溝を見ると、瞬時に寒気がして、顔を背けずにはいられなくなってしまうのだ。世間でどれだけ美人と謳われる女性であっても、鼻の下の溝が深いというだけで、覇斗基準で最低ランクの評価に落ちてしまうことは避けられない。
中学時代、覇斗はその手の女子に告白を受けたことがある。校内最高の美人と評判のクラスメイトで、性格も成績も人望も申し分なく、彼自身、相手の人となりには好感を抱いていた。しかし、告白され真正面から相手の顔を見た時、そこにある三角刀で彫ったような鼻の下の溝に対し、絶望的に受け入れられないものを感じ、即座に拒絶してしまったのだ。
覇斗もすぐさま詫びやフォローを入れたが、断った本当の理由だけは言い出せずじまいだった。従って相手を納得させられるはずもなく、結局、双方にとって辛く気まずい思いだけが残ったのである。
それからというもの、覇斗に告白しようとする女子は皆無となった。「あの人でさえあっさり振られたのに、私なんてとても無理だわ」と、皆、のっけから諦めてしまったのだ。そして、ナルシストなのではないか、男の方が好きなのではないかという噂が彼に付きまとうことになる。
覇斗は、たかが顔の溝一本のことで相手の心に傷を負わせてしまったことへの罪悪感から、敢えて何も言い訳せずに中学時代を過ごした。だが、彼は断じてゲイやオカマの類ではない。健全な男子として普通に女性が好きなのだ。ナルシストでもない。なぜなら彼の鼻の下の溝もどちらかというと深い方に属するからである。彼は、周りから「カッコいい」「イケメン」と言われるたびに「この顔のどこが?」と反発する気持ちを抱き続けてきたのだった。
現在、覇斗の身近に、どうしても受け付けないレベルの鼻の下の溝の持ち主はいない。唯一、宮城楓らの母親であるリツコだけは、ぎりぎり許容範囲というところに位置していた。一般的に見る限り妖艶なグラマー熟女であるところのリツコは、あまり視線を合わせようとしない彼を「ウブでシャイな子」と評している。
続く
第二章開始しました。のっけから宗教っぽくてすみません。数世帯がひとつところに住む拡大家族が、ずっと仲良くやっていくための精神的バックボーンがほしくて、こんな設定にしました。
あと、よくある不自然設定ですが、イケメンで完璧超人なのにかつて一度も彼女ができたことのないというアレに、なんとかリアリティを持たせるべく、主人公に変な属性を持たせてみました。とにかく色々実験しています。
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