第二十八幕 クローズZERO
原作者が嫌ったため、コミックのストーリーをそのままなぞった映画化とはならなかったことが結果幸いしました。
コミックの舞台設定上で、コミック登場人物をいくぶん拝借しながらも、映画化にあたり新たに登場させた、滝谷源治・芹沢多魔雄の主要人物がみずみずしく輝きます。
不吉な嫌われ者=カラスの溜まり場・鈴蘭男子高等学校。
三年生の中で一番強いと恐れられている芹沢多魔雄(山田孝之)が、ヤクザの組員を痛めつけたことから、さっそく御礼に組員の片桐拳(やべきょうすけ)がやってきます。
友人辰川時生(桐谷健太)の診断に付き添ってたことから不在だった芹沢に代わり、滝谷源治(小栗旬)が組員達の相手をしたことがきっかけで、鈴蘭制覇をめざす滝谷に、組員片桐はいれこみます。
父親(岸谷五郎)を凌ぎたいがために、さすがの父でもついぞ成し遂げなかった鈴蘭制覇をめざす滝谷源治と、いつも中途半端でまったく成長のない鈴蘭中退の組員片桐が対となるように滝谷と対置し、二人の成長する姿が描かれている映画です。
鈴蘭のテッペンを狙う滝谷は、腕力にはそれなりの自信があっても、まだ夢見るだけの純粋さしかありません。
そんな滝谷に自身の夢を託す片桐が、精一杯の制覇へのノウハウを伝授して、滝谷の鈴蘭制覇は始動します。
しかし、いまだ成長途上の滝谷には、人の心の機微は右も左も分からず、滝谷を信じてコンパに参加してくれた、ライブハウスで知り合った滝沢ルカ(黒木メイサ)から心底軽蔑される有様です。
ルカの存在は、滝谷の精神的成長を正しく促す象徴であり、源治の闘争心の根源に火を点火さす、発火装置です。
ルカが陰謀によって拐かされることで、場面は、一気に、終盤、決闘、決着に進むのですが、同時に、源治の人間的成長、片桐拳の人間的成長も進んでいるのでした。
暴力的対峙につきものの「死」の存在も暗喩されています。源治と多魔雄の共通の友人辰川時生の病弱さがそれです。
そして、源治に傾倒したことから、縄張り争いを繰り返すやくざ双方の狭間に立たされた片桐拳にも。
源治のGPS(Genji Perfect Seiha=源治完全制覇)と多魔雄の芹沢軍団との雌雄を決する場面には、精神的女神ルカの歌声が、死と闘う辰川の姿が、組の親分(遠藤憲一)とも正面から対峙できる程に成長を遂げたがゆえに、少々、いや、大いに危ない立場に立たされた、「跳べ!源治!」と叫ぶ片桐の姿があります。
自分の目的をまっしぐらに目指す滝谷源治の純粋な姿は、こじつけ的な強引さはありますが、「死」を「生」へと転化させる魔術的作用を持っています。
この映画の持つすがすがしさと底抜けの明るさは、成長する姿と共に、輝かしい「生」がその基調に置かれているからでもありましょう。
映画「クローズZERO」。見事な青春映画の王道です。
投稿者: 今井 政幸
→ 「クローズZERO」公式サイト
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