ミコちゃん降霊帳 第三話 「ジュエリー総司令 前編」 (ショート・ストーリー)

ミコちゃん降霊帳



あたしの足元には、気力を使い果たして再び気絶した中賀絵里さんがいます。


 この人は、もはや脅威とはなりえません。


 しかし、目の前にまだ六人の女子が立ちはだかっています。校内では結構有名な三年生ばかりですね。

 顔を見たら名前がポンと浮かんできます。まあ、どんなことをして有名なのかまでは知らないんですけど。

 やっぱり、どこかの部の部長なのかな。











投稿者:クロノイチ


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 改めて考えるとこの学校、風変わりな部が多過ぎるんですよね。絶対権力者の理事長の方針だといえばそうなんでしょうけど、生徒の自由を認め過ぎです。深夜労働部っていう非合法な感じの部まであるんですよ。

 で、目の前に一人、風変わりの代表みたいな人がいます。人目を引く青い瞳。その上、忍び装束なんて奇天烈なものを身に付けている人なんて、校内でこの人だけです。

「忍術研究部部長・エリ峰田(えり・みねた)、推参。──神懸美子、覚悟」

 うわ、いきなりこうきましたか。出し抜けに「覚悟」とか言われたって何のことやらって感じ。なんかやけに淡々としていて、ヤバい人みたいです。忍者っぽいといえばその通りなんですが……。

「ちょっと待ってよ。何か口上はないの? せめて後の五人ぐらい紹介してよ。せっかく『ジュエリー』の正体を掴んだんだから、答え合わせくらいさせてくれたっていいじゃない」
「『ジュエリー』が何なのか、知っているというのか」

 峰田さんが微かに驚いたような表情を浮かべました。

「勿論よ。あんた達六人がしゃしゃり出てきてくれたおかげで、あっさりわかったわ」
「ならば、抹殺するしかないな。忍術研究部は元々そのための部。『ジュエリー』の中にあって諜報と暗闘を担当し、組織に邪魔な者を排除する除去者(エリミネーター)──それがこの私。『ジュエリー四天王』にして、ナンバーフォー、エリ峰田だ」

 ああ、この人が中賀さんの言ってた四天王の一人ですか。体形はスリムですが、やっぱり強いんでしょうね。それにしても言ってることが中賀さん以上に物騒です。もしかして「ジュエリー」の序列って、過激な順なのかな?

「抹殺だなんて恐ろしいこと言うのね。うちの学校には、凶暴な変態はいても、根っからの不良なんていないと思ってたけど、『ジュエリー』って不良の集団なの?」
「そうとは一概に言えないな。ただ、『ジュエリー』のために働けば、その見返りとして、やりたいことをさせてもらえる。私にとって、それは暴力であり、ニンジャとして働くことなのだ。何をやらかしても、みんな組織が守ってくれる。他の『ジュエリー』のメンバーも、そして、その配下の連中も、それぞれに何か手助けしてもらいたいことがあるからこそ、『ジュエリー』に尽くしているんだ」
「だったら、『ジュエリー』を操ってる人の目的は何なの?」
「知らないさ。知る必要もない。知ってても『ジュエリー』の敵であるお前には言えない」

 あたし、峰田さんの青色の眼が怪しく輝いたような錯覚を覚えて、一瞬すくんじゃいました。こんな怖い人とはあんまり話していたくありません。

「さあ、散りゆく者の最期の頼みに応えて、この五人の紹介をしておこう。──と思ったが面倒だから、お前ら自分でやっておけ」

 峰田さんが投げ遣りに言うと、他の五人が一瞬顔を見合わせました。視線で協議がかわされたようです。一人ずつ順番に前に出て大声で名乗り出しました。

「『ジュエリー』のナンバーシックス、政治学研究部部長、間伽部恵里(まきゃべ・えり)」
「同じくナンバーセブン、男装応援部部長、津芽えり(つめ・えり)」
「同じくナンバーナイン、洋弓部部長、亜々地江莉(ああち・えり)」
「同じくナンバーテン、旅行研究部部長、日賀絵梨(ひが・えり)」

 ああ、やっぱり、そうなんだ。──男装応援部に思わずツッコミたくなる気持ちを抑えて、あたしはこう言い放ちました。

「中賀さんが言っていたわ。『ジュエリー』は十人だと。そして、あなた達全員、『えり』という名前だわ。これだけ聞いて『ジュエリー』の正体にピンと来ない人はいないわね」
「え、そうかな」

 六人が一斉にあたしから視線を逸らしつつ、下手くそな口笛を吹き始めます。こんな古くさいリアクション、久々に見ました。

「『ジュエリー』というのは『十人のえり』すなわち『十えり』をもじった組織名ね。ついでに言うなら、命名者は間違いなく中賀さん」
「あ、当たっている。──ま、まさか我が組織の最高機密が、こんなにもあっけなく解明されてしまうとは。恐ろしや、神懸美子」

 峰田さんがブルブルと身体を震わせ始めます。
「やはり『ジュエリー』のナンバーワンの言葉は正しかった。『神懸美子は必ず我が組織に災いをもたらすだろう。やられる前にやれ』。──神懸美子、今度こそ覚悟!」

 わ、峰田さん。両手の拳にメリケンサックみたいなものをはめましたよ。当たったらただじゃ済まなさそう。あ、亜々地さん、アーチェリーを構えてます。これって、もしかして絶体絶命?

「ちょ、ちょっと。それじゃ、当たりどころが悪かったら死んじゃうじゃない。ほんの何週間か、あたしを動けなくするだけでいいんでしょ。もっと穏便にいきましょうよ」
「そんな指令、私は聞いていない。ただ抹殺あるのみ」

 峰田さんが冷たく言い切ります。

 本格的にまずいことになりました。ちなみに残りの「ジュエリー」四人も、それぞれ「鈍器のようなもの」と「バールのようなもの」を手にしています。

「うわーん。話が違ぁぁぁぁうぅぅぅ!」

 あたしは取り乱したふりをしながら、誰を降霊すべきか必死で考えました。橘君なら、橘君ならやってくれる、と思いたいところですが、何しろ相手には武器があります。

「ふふふ。何か必死で策を考えているようだが、無駄だよ。何しろこの私は『世界忍術選手権』の金メダリストなのだ。強さの次元が違う」

 ガーン。「世界忍術選手権」の金メダリストということは、世界一の忍術使いということじゃないですか。凄い。凄過ぎる。かつて一度として耳にしたこともない大会だけど。

 もう橘君でも勝てないかもしれませんね。

 じゃあ、峰田さん自身を降霊するのは?

 うーん。峰田さんは危険過ぎますね。あたしの身体を使って「抹殺!」なんてやられたら、あたし、最悪の場合、殺人犯になっちゃうじゃないですか。

 亜々地さんとかは?

 峰田さんプラス五人が相手だと、目の前の誰を降霊しても勝ち目はないんじゃないかな。

 ならどうすれば?

 こうなったら腹を決めるしかないでしょう。思いついたばかりで何の保証もないですが、この窮地を切り抜ける唯一の手段にすがるしかありません。

 あたしは演技で余裕たっぷりの笑みを浮かべました。

「仕方ないわね。そっちがその気なら、相手をしてあげるわ。でも、あんた達、負けたら相応のひどい目に遭うけど、いいの? しばらくは起き上がれないかもよ」
「そんなことにはならないさ」
「じゃ、勝負ね。小手調べにみんなでジャンケンなんてどう?」
「ジャンケン? なぜ今ジャンケンを?」
「ウェルカムウェルカム・ライライライ、来たれ我が心のしもべよ」

 敢えて質問を無視して、誰にも聞こえないくらいの小声で降霊の呪文を唱えます。

「みんな、勝負しないの?」

 あたしはそう訊ねるやいなや、相手の返答を待つことなく、最後の言葉を口にしました。

「──降霊!」

 全て完了です。

 霊界に向かう寸前、あたしの耳に六人全員の「拒否する」という声が確かに届きました。

 ──あーあ、やっぱり勝負断っちゃったのね。これで不戦勝、決定!

 西園州リカさんからバトンタッチを受け、あたしが現実に戻ると、そこには奇妙な光景が広がっていました。

 絶賛気絶中の中賀さんを除く「ジュエリー」の連中が、全員放心状態で床にへたり込んでいます。体育座りでブツブツ呟いたり溜息をついてみたり。西園州さんの言葉が正しければ、みんな当分の間、使い物にならないみたい。

 あたしは、西園州さんを降霊する直前に、「ジュエリー」の連中に対し、「勝負に負けた場合はしばらく起き上がれないような目に遭う」という説明を済ませていました。ジャンケンの勝負を持ち掛けたのは、彼女らに断らせるため。勝負を断ればその途端、西園州さんの能力における「不戦敗」の要件が充たされます。そして降霊と同時に、狙い通りの効果が「ジュエリー」の連中に生じたのでした。ホント、うまく行ってとってもラッキー。

 さあ、行きましょう。面倒なことはサッサと終わらせるんです。「ジュエリー」のネタが割れた以上、こちらから仕掛けるのもありですよね。



 あたしは生徒会室を目指しました。

 うちの学校の生徒会室は、他に類をみない巨大なもの。鉄筋コンクリート製三階建ての別館の一階が、ワンフロアぶち抜きで生徒会室となっています。

 この別館は二年前、理事長が代わってすぐに着工され、去年の夏に完成したものだそうです。新しい理事長は、うちの学校を個人で買収してしまったほどのお金持ちで、当然のことながら、学校内の権力の一切を握っています。すなわち、オーナー社長ならぬ、オーナー理事長です。

 この理事長、以前にも述べた通り、生徒の自主的活動を非常に重視してて、それで、生徒会に一階全部をくれたみたい。まあ、二、三階は理事長自身のための部屋になってて、職員や生徒の出入りが禁止されてることを考えると、そんなに気前のいい人とは思えないんですけどね。

 おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

 生徒会室の入り口のドアにノックをします。返事がなかったので、勝手に入っていきました。誰もいません。まあ、そういうこともあるんでしょう。中に入る口実を色々考えてたんですが、無駄になりました。

 さて、部屋の一角に、多くの書類棚が立ち並んでいます。用があったのはまさしくそこ。あたしは、急いで書類棚に並んでいるファイルの背表紙を見て回りました。部活動関連の資料を探したんです。三十二の部の中から、あと三人いるはずの「エリ」を見つけるために。「ジュエリー」の四天王ですからきっと部長に違いありません。

 あたし、この学校の有名人なら、顏を見ればだいたい名前までスムーズに浮かんでくるんですけど、「エリ」という名前を聞いただけじゃ、さっぱり顏が思い浮かばないんですよね。多分、この学校の生徒に、「エリ」とか「マリ」とか「ユリ」とか「ロリ」とか似たような名前の人が多過ぎるからです。あ、「ロリ」はいなかったか。

 さてさて、ありましたよ、ジャーン! 今年度部活動関連ファイル! あたしは、すぐさまファイルを手に取り、開けようとしました。──その時です。

「そこで何をしてるの!」

 入口から、上級生らしい女の人が、つかつかと入ってきました。──誰でしょう? マスクをしていて、顏がよくわかりません。目を見た限りはちょっと怒っている感じ。ひょっとして、生徒会の人かしら。だったら、どう言いわけしましょうかね。

「帰りなさい!」

 その人はあたしを叱りつけるように、そう言いました。

「えっ?」
「下校時刻を過ぎてのいかなる部活動も生徒会活動も、この私が一切許しません! たとえあなたにどのような理由があろうとも、直ちに家に帰るよう命令します。──さもなくば……」

 えっ、これってひょっとして……?

「あのう、もしかして、あなた、帰宅部の人ですか?」
「その通り」

 普通、帰宅部というのは、部活動をやってなくて、授業が終わったあと、さっさと家へ帰ってしまう人のことをいいます。でも、うちの高校は違うんです。れっきとした三十二の部の一つとして、帰宅部は存在しています。

 んで、どんな部かというと、放課後、用もなく学校に残っている生徒を、家に帰るよう注意するのが本来の活動内容なんですけど、近頃は、だいぶ変質しちゃってるみたい。最近の帰宅部員たら、自分より弱いと判断した生徒に対しては、どんな正当な理由があろうとも、有無を言わさず強引に帰宅させようとするらしいんです。あたしは、今までは授業が終わったらすぐ帰ってたんで(途中でいつも邪魔が入るけど)、帰宅部員なんて見るの、今日が初めてでした。

「さあ、帰りなさい」
「はい。用事を済ませたらすぐ帰ります」

 関わり合いになりたくなかったんで、あたしは素直にそう返事しました。──ところがその人ったら、冷たくこう言うんです。

「それじゃ駄目。今すぐ帰りなさい」

 まあ、なんて石頭なんでしょ。

「ちょっとぐらい待ってくださいよ」
「無理ね。──相手にたとえどのような理由があろうと、絶対に猶予を認めないのが我が部の決まり。部長のあたしが決まりを破っては、他の部員にしめしがつかないでしょ」
「えっ、部長?」
「そう。あたしは帰宅部部長、岡枝理(おか・えり)」
「岡……枝理?」

 なんか、不吉なドンピシャ感があるんですけど。おそるおそるこう尋ねてみました。

「あのぉ、『ジュエリー』の人ですよね?」
「え! どうしてあなたが、『ジュエリー』のことを? ──あーっ! あなた、神懸美子ね!」
「ああ、やっぱり『ジュエリー』だったか」

 あたしはガックリと膝をつきました。確かに自分から打って出るつもりは満々だったんですがね、今日はもう疲れたし、部活動関連ファイルの閲覧だけにしとこうと思ってたんですよ。なのにまだお代わりが来ますか。ああ、「お代わり」といっても「岡枝理」に引っ掛けたわけじゃないですよ。そんなクオリティの低い語呂合わせをわざわざやるほど、この神懸美子は落ちぶれちゃいません。

 岡さんがマスクを外して素顔を見せます。確かに見覚えがありました。はっきりした特徴のない顏なんですが、帰宅部部長の知名度が高いせいで記憶に残ってたようです。

「『ジュエリー四天王』の一人。そして、『ジュエリー』のナンバースリー。人呼んで『放課後の女帝』──それがあたしよ。どうやら先陣を切った中賀さんはあなたに負けてしまったみたいね。だったらここで会ったが百年目。今度はあたしの番よ。このまま帰すわけにはいかないわ」

 偉そうに岡さんが言います。峰田さん達のことはなんにも知らない感じですね。

「さっきまで、帰れって言ってたくせに。あんたそれでも、帰宅部の部長?」
「うん。それでも帰宅部の部長なのよ。人はあたしのことを、『キタック・ナンバーワン』と呼ぶわ」
「『放課後の女帝』じゃなかったの?」
「細かい詮索しないで」

 なんか、岡さんてホントは親しみやすい性格なのかもしれない、と思えてきました。

「──で、あたしをどうするつもり?」
「あら、急に話がとんだわね」
「そうでもしなきゃ、話、進まないもん」
「話……か。──話はなし」
「それ、さっき中賀さんから、聞いた。二番煎じ」
「えーっ、中賀のやつ、ひどい! 自分にこれっぽっちもギャグセンスがないからといって……他人の持ちネタをパクるなんて!」

 岡さんは本気で憤慨しているようです。たった四文字のネタに所有権を主張するなんて、バカとしか思えません。あたしは冷やかにこう言ってやりました。

「そのオヤジギャグに、オリジナリティなんて全然ないと思うけど。それに面白くもなんともないし。つまらないことハゲね」
「『ハゲ』ってどういう意味よ?」
「この上なし、ってこと。『この上』なし→『こ』の上なし→『け』なし→ハゲ」
「なるほど」

 岡さんがマジで感心しています。アホです。

「──『ハゲ』と言ってあたしを『けなし』たわけね」

 前言撤回。こやつなかなかできる。最初に実力を低く見せて油断させる作戦だったのか。ナンバースリーの序列は伊達じゃないってことですかね。強さだって、もしかしたら峰田さんより上なのかも。──あたしは思わず身構えました。

「なけなしのギャグを中賀に奪われた憂さ晴らし、あなたをやっつけることで果たすとするわ。こう見えても、あたし負けなしなのよ」

 断言しましょう。最強の敵です。ヤバいオーラが岡さんから立ちのぼります。こうなりゃ先手必勝だわ。来たれ、岡枝理の魂。自分で自分を倒しやがれ。──と思って降霊しようとしたら、岡さんがしゃがんで何やらごそごそやり始めました。

「何してるの?」
「あなたは、あたしが始末するつもりだけど、万一のことを考えて、一応、ジュエリーのメンバーに非常招集を掛けとこうと思ったわけよ。今、合図の狼煙(のろし)を上げるからちょっと待ってて」
「今どき、なんでまた狼煙なんか……」

 あまりの時代錯誤ぶりに、降霊するのも忘れて呆然としてしまいます。

「スマホとか電子機器全般、苦手なのよね」
「あんた、ホントに現代人?」
「ごめん。我ながら情けなし」

 やられた。まさかあたしが振ったネタを、ここまでねちっこく返してくるとは。

「早くしてよね」

 つい負け惜しみっぽい口調になってしまいます。

「『のろし』だけに時間は掛かるわよ。──あ、窓、開けて。煙、外に出さなきゃ、意味がないわ」
「はいはい。けど、援軍は期待しないでね。峰田さんより格下の『ジュエリー』は全員返り討ちにしたから」
「え、そうなの? あの峰田さんまで?」
「さっき中賀さんに呼び寄せられて、全員であたしに向かってきたのよ。あんたは呼ばれなかったの?」
「あたしはスマホ、持ってないから」
「あ、そういうことか」
「じゃ、この狼煙も無駄かなあ」

 といった緊張感も何もない会話の末、ようやく狼煙が上がりました。でも、室内で火を焚いたので、部屋中が煙だらけです。それどころか、すぐにも火事になりそうな案配ではありませんか。

「きゃあっ! 早く消してよっ!」
「大丈夫」
「何が大丈夫よっ。これじゃ、岡さん、『放火魔の女帝』になっちゃうわ!」
「すぐに消せるから問題ないわよ。今からあたしの特技を見せてあげるわね」

 と、言うが早いか、岡さんは口から、大量の透明な液体を吹き出しました。その液体が掛かるやいなや、火は瞬く間に消えていきます。見事なもんです。水道からホースで水を引っ張ってきても、こう鮮やかには消せないでしょう。

「消火完了」

 岡さんが胸を張ります。

「これは、いったい?」
「あたしの胃液は消火液なの」
「あららら」

 消化液と消火液を引っ掛けたオヤジギャグが、あたしをコケさせました。

「さあ、ずっこけてないで、勝負よ!」
「いいわ」
「その勝負、待った!」

 突然、誰かが、生徒会室に乱入してきました。よくよく乱入が続く日です。

「学校に残っていてよかった。その娘、神懸美子ね。──岡、助太刀するわよ」
「グッドタイミング! 助かるわ」

 やっかいなことに、敵が一人増えてしまったようですね。筋肉ムキムキでアスリート体型のなかなかの美人。パッと見、強そうです。こうなると岡さんか新手か、どちらか強い方を見極めて降霊する必要が出てきました。西園州さんを降霊してもいいんですが、不戦敗狙いが空振りしたらどうしようもありません。あれは本当に一か八かの時だけにしておきたいものです。

「あなたは?」

 あたしは乱入してきた人に問い掛けました。特徴的な人なのに、あまり学校で見た記憶がありません。地味な部の部長なんでしょうか。

「わたしは深夜労働部部長」
「深夜労働部ぅー?」

 地味な部どころか、とんでもない部でした。なるほど、学校で部活をしてないから、校内では見かけないのか。そういえばこの部もあたしを勧誘に来てたんですよね。問答無用で追っ払ってたから、詳しい話は聞いてないけど。

「妙な目で見ないでよ。いかがわしいことはしてないんだから。大学生のふりをして健全な夜間アルバイトに夜通しいそしんでるだけ。この肉体を使ってね。おわかり? 工事現場があたし達の戦場」
「そんなのやってて、いつ、寝てるのよ?」
「授業中」
「あ、そう……」

 呆れて二の句が継げません。

「──さて、あたしは、『ジュエリー』ナンバーツーにして、『ジュエリー四天王』の一人。その名も高き浅香恵利(あさか・えり)よ。いざ尋常に勝負!」
「二人がかりで、尋常な勝負も何もないんじゃない?」

 言っても仕方がないことはわかってるんですが、つい口を衝いて出てしまいます。

「それもそうね。岡、あんた、格下なんだから、わたしに譲りなさい」

 あれ? 浅香さんがあたしの言葉に乗っかってきましたよ。

「何言ってんの。後から来たくせに」
「一人で勝てる自信がないから、狼煙を上げたんでしょ。弱虫は引っ込んでた方が身のためじゃない?」
「念には念を入れただけ。それに別にあなた個人を呼んだわけじゃないわ」
「さっきは嬉しそうな顏してたくせに」
「使える手駒が増えたと思ったからね。手柄を横取りしようっていうんなら、話は別よ」
「横取りなんてセコい真似、わたしがするように見えるの?」
「見えるから、言ってるのよ」
「なんだとコノヤロ!」
「何よ、筋肉バカ」

 いつの間にやらあたしが蚊帳の外です。『ジュエリー四天王』の二人の間に何やら剣呑な空気が漂い始めました。

「まあまあ、落ち着いて、落ち着いて。このままじゃ埒があかないから、まず、二人が戦って、勝った方があたしと戦うっていうのはどうかな?」

 仲裁すると見せかけて、二人を焚きつけてみます。

「それはいいわね。岡、勝負よ」
「勝ったら、ナンバーツーの称号をもらうからね。それなら勝負を受けるわ」
「いいわよ。どうせわたしが勝つんだから」

 あれ、あたしの提案、すんなり受け入れられちゃいました。ラッキー!

 と、思ってたら、二人の背後の空間に銀河系やら巨大な不死鳥やらのイメージが浮かび始めました。何これ? アニメの必殺技シーンみたい。マジこれ、この二人が作り出してんの?

「岡よ。我がフェニックスの牙、受けてみるか」

 浅香さんがやけにクールぶった表情で言いました。でも、いかに伝説の鳥フェニックスとはいえ、鳥に牙はないでしょ、牙は。それに口調が時代がかってて、ちょっと変。

「食らえ、『放課後の女帝』最大の奥義! ──『フェニックス鳳凰拳』!」
「なんの。今こそ究極にまで燃え上がれ、あたしの『大銀河(ギャラクシー)』よ!」 

 おお、岡さんの背後の銀河系が膨れ上がってビカビカ光り出したっ。今、岡さんはモーレツに熱血してるっ! ──それにしても、『ギャラクシー』っていったい何?

「ヘパイストスよ、わたしに力を!──『銀河コスモ流星パンチ』!」

 二人ともなんてひどいネーミングセンス。

  「不死鳥が哭いた!」「銀河が砕けた!」

 な、な、何、これ。いきなり空間に漫画のアオリ文句みたいな活字が。

 ドッカ──ン!

 激しい衝撃を受け、あたしはとっさに頭を抱えてしゃがみ込みました。想像を絶する二人の必殺技の威力。気付くと、生徒会室の窓ガラスが全部吹っ飛んでいます。人間業じゃありません。二人とも化け物です。これが『ジュエリー四天王』の本来の実力なのか。

 あれ、そういえば岡さんも浅香さんも床に倒れてますよ。どうやら相討ちみたい。あっけないもんですね。しめしめ。あたしの頭脳の勝利だわ。これで『ジュエリー』も残るは一人。ナンバーワンだけです。ちょうど生徒会室にもいることだし、この際、面倒臭がらずにファイルを調べて特定してしまいましょう。



 ところがです。

  「ドン!」

 いきなり空間にそんな巨大な書き文字が現れました。そして驚く間もなく出現した次のような活字に、あたしは唖然とする他なかったのです。


「ピンチを脱した神懸美子の前に現れる謎の影。 ── 次回、衝撃展開!」

後編に続く





 長くなったので分割しました。昔書いた話だとはいえ、今の時代に合わせて修正し、色々とネタも追加したので、この分量だと、通常の更新の数回分の労力をを消費しますね。

 残りあと一万数千字。どうぞおつき合いください。

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