ほら穴の七地蔵 (ショート・ストーリー)
途中までのあらすじ
今日は、市の芸術祭。この日を楽しみにしていた主人公 『俺』 は市の文化会館へ向かうが、途中で考え事をしているうちに、自分が今、どこへ何をしにいくつもりだったのか、ど忘れしてしまった。
記憶喪失に御利益があるという 「ほら穴の七地蔵」 の話を、街角の占い師に教えられた 『俺』 は、記憶喪失もど忘れも似たようなもんだろうと考え、一路、七地蔵のあるほら穴へと向かう。
だが、七体の地蔵は、ど忘れ程度で頼られては困ると言い、どうしても願いをかなえてほしければ、七問のクイズに全て正答してみろとの難題を吹っ掛けてきた。
これには 『俺』 も戸惑った。しかし、その条件に応じないわけにはいかない。『俺』 は必死の思いでクイズを解いた。そして、四体の地蔵の出すクイズに、立て続けに正解したのである。
果たして、『俺』は、七問のクイズを全部解けるであろうか。
── 記憶回復まであと三問!
投稿者:クロノイチ
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今日は、市の芸術祭。この日を楽しみにしていた主人公 『俺』 は市の文化会館へ向かうが、途中で考え事をしているうちに、自分が今、どこへ何をしにいくつもりだったのか、ど忘れしてしまった。
記憶喪失に御利益があるという 「ほら穴の七地蔵」 の話を、街角の占い師に教えられた 『俺』 は、記憶喪失もど忘れも似たようなもんだろうと考え、一路、七地蔵のあるほら穴へと向かう。
だが、七体の地蔵は、ど忘れ程度で頼られては困ると言い、どうしても願いをかなえてほしければ、七問のクイズに全て正答してみろとの難題を吹っ掛けてきた。
これには 『俺』 も戸惑った。しかし、その条件に応じないわけにはいかない。『俺』 は必死の思いでクイズを解いた。そして、四体の地蔵の出すクイズに、立て続けに正解したのである。
果たして、『俺』は、七問のクイズを全部解けるであろうか。
── 記憶回復まであと三問!
投稿者:クロノイチ



これより本編。
腐敗した生ガキによる食中毒でさえ一瞬で治りそうな、とことん「下らない」クイズのせいで、今や俺の頭はパンク寸前だった。俺はそれなりに智恵は回るものの、なぞなぞ的なクイズはあまり解き慣れていないのだ。
だが頑張るしかない。
五体目の地蔵が言った。
「農家のおやじと、八百屋の主人がジャンケンを百回やりました。さて、どちらが何回勝ったでしょう?」
「むむむむ」
俺は唸った。──果たして俺にこの難問が解けるのか?
「降参ですか?」
いや、絶対に解いてみせる。──待てよ。そうか。
閃いた。ヒラメいてくれてよかった。カレイはいてくれなくてもいい。
「わかったぞ。農家のおやじが全勝したんだ」
五体目の地蔵が尋ねる。
「その理由は?」
俺は自信タップリに答えた。
「そりゃもう農家なんだから、百勝(百姓)するに決まってる。それに、サービスのいい八百屋ならまけてくれるのが当然だ」
五体目の地蔵が言った。
「わしの負けじゃ」
六体目の地蔵が言った。
「いつまでも続けていたい仕事は?」
ピンと来た。ここに来てやっと経験不足を克服できた気がする。
俺は堂々と言ってやった。
「これは簡単。『商売』だね」
六体目の地蔵が言った。
「なぜじゃ?」
俺が答える。
「商売は、『飽きない』っていうし、商人てのは、『飽きんど』っていうからね」
六体目の地蔵が言った。
「わしの負けじゃ」
七体目の地蔵が言った。
「旅行に出る人を見送る時に言う言葉は?」
なんとなく目星はついた。さすがは俺だ。ど忘れはしても、頭は回る。
「どうせ、ひねった問題だよな」
そう確認すると、七体目の地蔵が答えた。
「最後の問題じゃ。ありきたりの答えでは通用せんぞ」
「それを聞いて安心した『行ってらっしゃい』なんかじゃ芸がないもんな」
俺は確信を持ってこう言った。
「では、旅行に出る人を見送って一言。──じゃあにぃーっ!」
すると、七体目の地蔵がニコリと微笑んだ。
「わしの負けじゃ。約束通り、お主の願い、かなえてやろう」
その時、俺が行こうとしていたイベントに関する記憶が鮮やかに蘇った。
「あ! お、おお。何もかもすっかり思い出したぞ。と忘れとはいえ、なぜこんな簡単なことを忘れてたんだ? ──あ、お地蔵様! 今、何時だい?」
俺が慌てて尋ねると、七体目の地蔵はすっかりくだけた調子で答えた。
「あー、午後六時じゃな」
俺は愕然とした。
「なんてこった! もう芸術祭終わってるじゃないか」
後悔が一気に押し寄せてきた。
畜生! 芸術祭のことぐらい、自力で頑張って思い出そうとすれば、絶対に思い出せたはず。占い師に乗せられてうかうかとこんな山奥のほら穴に来たばっかりに、時間が……!
「畜生! 畜生!」
自分を責める俺に、七体目の地蔵がこう優しく語りかけた。
「まあ、そう悔やむな。悔やんだところで過ぎ去った時間は帰りはせぬぞ。──いうなれば、芸術祭だけに『アートの祭り』ってことじゃな」
END
腐敗した生ガキによる食中毒でさえ一瞬で治りそうな、とことん「下らない」クイズのせいで、今や俺の頭はパンク寸前だった。俺はそれなりに智恵は回るものの、なぞなぞ的なクイズはあまり解き慣れていないのだ。
だが頑張るしかない。
五体目の地蔵が言った。
「農家のおやじと、八百屋の主人がジャンケンを百回やりました。さて、どちらが何回勝ったでしょう?」
「むむむむ」
俺は唸った。──果たして俺にこの難問が解けるのか?
「降参ですか?」
いや、絶対に解いてみせる。──待てよ。そうか。
閃いた。ヒラメいてくれてよかった。カレイはいてくれなくてもいい。
「わかったぞ。農家のおやじが全勝したんだ」
五体目の地蔵が尋ねる。
「その理由は?」
俺は自信タップリに答えた。
「そりゃもう農家なんだから、百勝(百姓)するに決まってる。それに、サービスのいい八百屋ならまけてくれるのが当然だ」
五体目の地蔵が言った。
「わしの負けじゃ」
六体目の地蔵が言った。
「いつまでも続けていたい仕事は?」
ピンと来た。ここに来てやっと経験不足を克服できた気がする。
俺は堂々と言ってやった。
「これは簡単。『商売』だね」
六体目の地蔵が言った。
「なぜじゃ?」
俺が答える。
「商売は、『飽きない』っていうし、商人てのは、『飽きんど』っていうからね」
六体目の地蔵が言った。
「わしの負けじゃ」
七体目の地蔵が言った。
「旅行に出る人を見送る時に言う言葉は?」
なんとなく目星はついた。さすがは俺だ。ど忘れはしても、頭は回る。
「どうせ、ひねった問題だよな」
そう確認すると、七体目の地蔵が答えた。
「最後の問題じゃ。ありきたりの答えでは通用せんぞ」
「それを聞いて安心した『行ってらっしゃい』なんかじゃ芸がないもんな」
俺は確信を持ってこう言った。
「では、旅行に出る人を見送って一言。──じゃあにぃーっ!」
すると、七体目の地蔵がニコリと微笑んだ。
「わしの負けじゃ。約束通り、お主の願い、かなえてやろう」
その時、俺が行こうとしていたイベントに関する記憶が鮮やかに蘇った。
「あ! お、おお。何もかもすっかり思い出したぞ。と忘れとはいえ、なぜこんな簡単なことを忘れてたんだ? ──あ、お地蔵様! 今、何時だい?」
俺が慌てて尋ねると、七体目の地蔵はすっかりくだけた調子で答えた。
「あー、午後六時じゃな」
俺は愕然とした。
「なんてこった! もう芸術祭終わってるじゃないか」
後悔が一気に押し寄せてきた。
畜生! 芸術祭のことぐらい、自力で頑張って思い出そうとすれば、絶対に思い出せたはず。占い師に乗せられてうかうかとこんな山奥のほら穴に来たばっかりに、時間が……!
「畜生! 畜生!」
自分を責める俺に、七体目の地蔵がこう優しく語りかけた。
「まあ、そう悔やむな。悔やんだところで過ぎ去った時間は帰りはせぬぞ。──いうなれば、芸術祭だけに『アートの祭り』ってことじゃな」
END
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