『風の又三郎』 (岩手県 種山高原)
賢治の死後発表された作品で、『銀河鉄道の夜』 と同様に未完成だったようです。
「永久の未完成これ完成である」 ですね。
9月の初め、風が強くなる季節に転校してきた少年 高田三郎と山の分校の子どもたちとの交流を描いています。
分校の子どもたちは、三郎のエキセントリックな言動や行動に戸惑いながらも、刺激的な遊びや事件を通して友情を深めて行くのであります。
しかし、三郎は、わずか12日間居ただけで、分校の子どもたちに強烈な印象を残し、風のように去って行くのであります。。。。。
物語の中の会話は、ほとんど方言だけで行われていますし、突然文章が飛んでるところはあるしで、少々難解な童話です。
「ちょうはあ かぐり ちょうはあ かぐり。」 「なして泣いでら、うなかもたのが。」 「そだら早ぐ行ぐべすさ。おらまんつ水飲んでぐ。」 「又三郎うそこがなぃもな。」等々、東北の人が読んでもよく分からない部分が多いです。
声に出して読んでみて、なんだ、こう言ってるのかー! と、やっと理解できる部分も多いです。

種山ヶ原にある 「風の又三郎」 の像
後方に見えるのが物見山(871メートル)です。雨量観測所の白い建物が見えます。
この魅力的な物語は、どこで繰り広げられたのでしょうか?
物語には、種山ヶ原の 「た」 の字も出てきませんし、種山ヶ原あたりの地名も登場しません。
しかし、種山ヶ原を暗示させるキーワードが多く出てきます。
「上の野原」 「馬の牧場、放牧場」 「高原から流れ出る多くの渓川」 「物見山の山頂付近に展開する残丘のような大きな黒い岩」 などです。
これらのことから 『風の又三郎」は、種山ヶ原を舞台にした物語だと言えます。
もう一つ決定的なものがあります。
それは、「モリブデン」 「モリブデン鉱山」という言葉が登場することです。
地質学者でもあった賢治は、鉱物や岩石に関する豊富な知識がありました。
高田三郎の父は、鉱山技師でモリブデンの鉱石が出るという 「上の野原」 の鉱山を開発するためにやって来たのです。
こんな記述があります。先生と生徒の会話です。
「上の野原の入り口にモリブデンという鉱石ができるので、それをだんだん掘るようにするためだそうです。」「どこらあだりだべな。」 「私もまだよくわかりませんが、いつもみなさんが馬をつれて行くみちから、少し川下へ寄ったほうなようです。」 「モリブデン何にするべな。」 「それは鉄とまぜたり、薬をつくったりするのだそうです。」
ご存知のように、モリブデンと言えば 「モリブデン鋼」、高級包丁などに使われる最高級のステンレスです。
「薬」 というのは、肥料のことのようです。
しかも、稲作にはかかせない肥料になるとか。さすが、科学者 賢治!すごい知識です。
実際、賢治は、盛岡高等農林学校時代の大正6年に、学友たちと一緒に種山ヶ原一帯の地質調査を行っているそうです。
そして、なんと、モリブデンを含む鉱脈を発見したのです!!
以後、賢治は何度も種山ヶ原を訪れています。
う~む、やっぱり、『風の又三郎』 の舞台は種山ヶ原ですね!(笑)
* 種山ヶ原にういては、
→ 「種山ヶ原 (岩手県 種山高原)」(Anthony's CAFE 2012/01/20) の記事も参照のこと。
投稿者: 霧島
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