第十五幕 魔笛

いま、求められる叡智 映画「魔笛」

 モーツァルトのジングシュピール(歌芝居)「魔笛」の設定舞台を、大胆にも第一次世界大戦前夜に移しかえたこの映画のメッセージショットが、幾百千万もの墓碑が立ち並ぶシーンです。
 
 世界各国の文字によって、死者の名と享年が刻み込まれた墓碑は、ザラストロが歌うアリアと和して、わたしたちに死をもたらす諍いへの悲しみと憤りを誘います。

 あまりにも有名なモーツァルトの「魔笛」の物語は、タミーノが、夜の女王に、悪者ザラストロに奪われた娘パノーノの救出を依頼され、これを受けてパパゲーノと共にザラストロの城に乗り込みますが、逆に、ザラストロの高徳さにうたれ、ザラストロの勧めるがままに、パノーノと結ばれるべく、沈黙、火、水の試練を受け、その試練を乗り越えて無事二人は結ばれるというお話です。

 魔笛とは、タミーノが、夜の女王から、ザラストロ撲滅の一助にと手渡される魔法の笛で、これは、夜の女王の夫(物語には登場しませんが)、パミーノの父が、魔法の時刻に、稲妻と雷鳴の吹きすさぶ嵐の中で、樹齢千年の樫の木の奥深くから彫ってつくったもので魔力を持っています。

 タミーノとパミーナが火や水の試練を受ける時、二人は、この魔笛に守られるのです。

 さて、そもそも幾百千万の墓碑のもとになった諍いは、夜の女王とザラストロとの対立です。(墓碑はあくまで映画のための脚色で、モーツァルトの「魔笛」には墓碑は出てきません。)

 魔笛が魔力を持つのですから、その魔力によって、魔笛を所有する夜の女王こそが最終的に勝利をおさめることとなっても、不思議ではありません。

 「魔笛」には、他にも、夜の女王からタミーノに使わされる三人の童子が、タミーノにザラストロの城への道案内をした後、ザラストロ側の者として登場するとか、ザラストロの城の住人でありながら、夜の女王の手助けをしてしまうモノスタトスのように、はっきり善人悪人のどちらの側か見分けつかない奇妙なねじれがあります。

 有名な夜の女王のアリアで、ヒステリックに復讐を誓い、短剣でザラストロの命を奪うよう娘パミーノに強要する夜の女王も、冒頭、三人の侍女たちの言うことによれば、かつては、心優しい人でした。

 魔笛や、タミーノに同行するパパゲーノに渡すチャイム(舞台では鈴)のように、魔力をもつ宝物を所有しながら、ついぞ、夜の女王はそれを活用出来なかった、というのが「魔笛」の物語です。

 これは、高徳なザラストロ側につきながら、パミーノにけそうする邪心によって身を滅ぼすモノスタトスが、合わせ鏡のように、一対となって配置されていることからも理解出来ます。

 三人の侍女たちも、タミーノの美貌に惹かれ、互いに、自分こそがタミーノの側に居残ろうとする、コミカルな利己心が窺いしれもするのです。

 冒頭、塹壕を駆け走る伝令がもたらす合図と共に、楽隊が兵士達を鼓舞し、空を飛ぶ飛行機の群れが事変をつげて始まるこの映画は、いまのわたしたちに、試練を受けてまで得るべき叡智こそが、わたしたちに愛と幸福をもたらし、悲しみと憤りの不幸をぬぐい去ると伝えます。

 大胆な脚色で、いまのわたしたちに「魔笛」の真髄を伝える映画「魔笛」見事です。



投稿者: 今井 政幸


「魔笛」公式サイト


モーツアルトの「魔笛」の世界に触れてみるっ!




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