第六十五幕 12人の怒れる男
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ロシアのとある殺人事件の裁判のお話です。元ロシア軍将校が殺害されました。
容疑者として逮捕されたのが、チェチェン人の少年です。
年は、チェチェンの戦乱で両親を失い、殺害された将校に養われていました。
「殺してやる!」、という少年が養父に投げつけた言葉を、近所の者が聞いていました。
少年が慌てて家を飛び出していく姿が目撃されていました。少年は大金を所持して家に戻って来たとき、逮捕されました。
3日間に渡る審議が終わりました。検察は、最高刑の終身刑を求刑。
市民の中から無差別に選ばれた12人の陪審員は、評決をくだすため別室へと案内されるのでした。
あのシドニー・ルメットの名作 『12人の怒れる男 12 Angry Men』 の設定を借りたこの作品は、設定の大枠を名作になぞってるとはいえ、リメイクではありません。
評決は、12人、全員一致で決まります。
改造中の裁判所は、学校を間がりしているので、陪審員たちは、学校の体育館に並べられたテーブルの席につき評決をとることになりました。
すでに、3日間の審議で、陪審員らの評決は固まっていました。
市民の義務とはいえ、それなりに気ぜわしい彼らは、さっさと評決して帰宅したがってます。
挙手で評決することにしました。
議長役となった陪審員2( ニキータ・ミハルコフ 、この映画の監督です。)が挙手を数えます。
有罪としたのは、12人中、11人でした。
反対した陪審員1(セルゲイ・マコヴェツキイ)に、他の者たちが詰め寄ります。
なぜ。証拠も揃っている。犯人はあの少年に間違いない。なのにどうして無罪とするのか。
陪審員2は答えます。
いま、有罪と決まったら、少年は一生刑務所の中なのですよ。あの少年にとって一生のことを、話し合いもせず、挙手だけで決めていいんですか? まず、話し合いましょうよ。せめて、本当にあの少年が殺人犯に間違いないのか。
次に、陪審員2は自分の身の上を語り出します。
彼は貧しい研究者で、妻の働きで、新型のダイオード開発をしていました。妻に支えられた苦しい生活の中から、ようやく、彼は新製品を生み出します。
画期的なものでした。彼は、この特許を、ロシアの会社に売り込みます。彼は、自国の会社に自分の開発したものを買って欲しかったのです。
ところが、どの会社も手を出しません。開発品が売れないため、貧しさは極限に達し、彼の研究を支えた妻は彼のもとを去っていきました。
彼は精神がすさび、わけもなく他人にくってかかって喧嘩をうり、他人が激怒のあまり自分を殺してくれることすら願っていました。
たまたま乗った列車で、いつものように酒に溺れ、周囲に喚き当たり散らしていたとき、それを見ていた女の子が母親に尋ねます。
あの人、大丈夫かしら。母が娘にさとします、なんでもないのよ。あの人はただ寂しいだけなのよ。
この母娘と出会ったことで、陪審員2は母と結婚し、ダイオードの開発品も他国(日本だ!)に売れ、いまでは、会社の社長にまでなったと。
「合理的な疑い」。
少年が犯人であることに、理にかなった疑いがあるなら、一同で話し合わなければならない、とアメリカ・ハーバードで学んだ陪審員6(ユーリ・ストアノフ)が説明します。
すると、陪審員12(ロマン・マディアノフ)が、殺害現場に金を持って戻って来た少年の行動に疑問があると言い出します。殺人犯が、わざわざ犯行現場に金を持って戻ってくるはずはない、と。
かくして、あの名作をなぞった筋書きで、次第に、少年を犯人とする犯行への疑問点が次々に洗い出されてくるのですが、この映画は、原作の持つ、合理的な殺人事件の謎解きから次第に外れ、被告を裁くという使命を与えられた12人の陪審員が、母娘の慈悲に救われた一人の研究者によって、裁くことの重要・重大な使命を教えられ、裁くより、人にはより暖かくあるべきとする、法をないがしろにするような思想にまで達する凄みを持っています。
ロシア国内では決して大きな声では語れないチェチェン問題を通底音として、現代ロシアの抱えてる諸問題の解決を願うべく、監督は、慈悲を説きます。
法は大事だが、法より慈悲が大事とするこの映画は、わたしたちに、既成の考え方の放棄を迫りもします。
人が人を裁くことの意味を丁寧に教え諭す、映画「12人の怒れる男」を堪能あれ。
投稿者: 今井 政幸
→ 『12人の怒れる男』 公式サイト
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