第五十幕 フィクサー

良心のめざめ      映画 『フィクサー』

映画 『フィクサー』 海外公開時のポスター



 冒頭、画面にかぶるナレーションは、弁護士アーサー(トム・ウィルキンソン)が、同僚マイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)に宛てた、彼のとった奇妙な行為の説明であり、心情吐露であり、信念の告白だった。


 農薬会社U・ノース社は、農民たちから訴えられた集団農薬訴訟の和解へと慌ただしく動いていた。

 新しく担当責任者となった法務部本部長カレン(ティルダ・スウィントン)は、テレビのインタビューへ受けるが、彼女のテレビインタビューのありさまと共に画面は、カレンが自宅でするインタビューへの念入りな下準備の様子までも映しだす。

 カレンが、首尾良く農民たちからの集団訴訟を乗り切ろうとしていた時、アーサーの、訴訟の大詰めの場でとった奇行がU・ノース社に伝えられる。

 アーサーは、雇われの立場でありながら、農薬会社の非を認め、農民たちに自分が彼らの側に立つことと、自分の清廉さを信用してもらうためにと、詰めの場で、衣服を脱ぎ、裸になったのだった。

 この唐突なアーサーの奇行は、事後処理係のマイケルを困惑させたし、アーサーのいいわけをすべて信じることも出来なかった。

 が、アーサーは死んだ。警察はアーサーの死を自殺と判断する。

 アーサーの死を不信に思ったマイケルは実弟の刑事に頼みこみ、独自に、違法な、アーサーの自宅を捜査する。

 マイケルに事件への疑念が沸いてきた時、マイケルはいきなり被害にあう。彼もまた狙われていたのだった。


 製作総指揮にジョージ・クルーニー。製作にシドニー・ポラックが名を連ねるこの映画は、一見社会派の様相をとりながら、しかし、映画が克明に描くのは、マイケルが対決するカレンの、緊張時にトイレに駆け込み、脇下の汗を気にする様子は、動揺を隠せない心の緊迫感の表れであり、罪悪感の表れです。

 カレンの、念入りな、テレビインタビューへの練習の様子。

 衣服を念入りにチェックし、人から自分がどのように見えるか気をくばるカレン。

 これらは、カレンの、内心、犯した罪悪におびえる気の小ささであり、アーサーが職務を放棄して、農民側の正しさを認めた良心のめざめにも通じます。

 カレンの脇下に滲み出た汗と共に重要な、詩的な、三頭の馬がのどかに放牧されているシーンは、東方の三賢人、東方の三博士をも連想させて、映画は、ありきたりな、社会派告発劇と一線を画して、誘惑に負けない、崇高な、人としてのあり方を主張します。

 
 飲んだくれで、マイケルの財産を食いつぶした、もう一人の、ろくでなしの弟に、最後は助けてもらうマイケルの複雑な心情をも的確に描写した映画「フィクサー」は渋さ満点!



投稿者: 今井 政幸


『フィクサー』 公式サイト



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