第四十六幕 アメリカを売った男

スリリングな心理劇   映画 『アメリカを売った男』


『アメリカを売った男』米国上映時のポスター  『アメリカを売った男』国内上映時のポスター
米国上映時のポスター                       国内上映時のポスター


 2001年2月18日、FBI特別捜査官ロバート・ハンセンがスパイ容疑で逮捕された事実を元に、その逮捕に至った経緯が克明に描かれたこの映画は、終始、スリリングな緊迫感に満ちています。

 ロバート・ハンセン(クリス・クーパー)を追い詰めた、ライアン・フィリップが演じるFBI捜査官のエリック・オニールが、この映画の原案者です。

 内情をすべて知る当事者が映画製作に加わったことから、映画は全編、相手の胸の内を互いが互いを探りあうリアルな心理劇になりました。画面には緊迫感がみなぎります。

 エリックが、ロバート逮捕のために選ばれたのは、コンピューターの専門知識があることや、積極的に上部に企画立案を提出する野心さが買われてのことでした。

 冒頭、映画は、配属前のエリックの仕事ぶりを描きます。

 次に、家庭でのエリックが妻と二人で、戯れている姿が描かれます。

 妻のジュリアナ(カロリン・ダバーナ)の頭を撫でるエリックの、たわいもないくつろぎのひとときです。

 そんなところに電話が鳴ります。

  妻はエリックに、「出ないで」と頼むのですが、エリックは受話器を取ります。

 これが、ロバート逮捕に向けてエリックを専任する呼び出しの電話でした。

 この、冒頭、わずか数ショットのシーンが、映画のエッセンスをみな凝縮しています。

 この映画は、ロバート逮捕に至る些細なFBIの活躍の描写とはうらはらに、ロバート逮捕のためにエリックの家庭が壊されていく過程を詳細に描いた物語でもありました。

 信心深いロバートは、気の乗らないジュリアナをも日曜ミサに誘い込み、エリックの身辺調査のため、妻ボニー(キャスリーン・クインラン)と同行で、エリックの家に押しかけます。

 食事時間に遅刻のエリックがとっさのついた嘘を聞き逃さないジュリアナは、ロバートに振り回されるそんな有様に爆発して、エリックに、与えられた使命がなにかを問い詰めるのでした。

 映画の中で、ロバートがスパイとなった動機やいきさつが細かく語られることはないので、史実マニアにはもの足らなくもありますが、事件を通して、エリックが最終的に出した、家庭の平和とやすらぎのための結論は、互いの腹の中をさぐりあうスパイ行為の無意味さを突いて秀逸です。

 人智が到達する前途に明るい希望を見いだす、映画 『アメリカを売った男』 は見事です。



投稿者: 今井 政幸


『アメリカを売った男』 公式サイト






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