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特大家族 第二章 リセットスイッチ その14 (小説)
同じ頃、美晴子の部屋。パジャマに着替え中だった美晴子があっけに取られて硬直していた。 千春子が、不意にノックもなく転がるように上がり込んできたからである。「ええと、千春子、税務署の予告なしのガサ入れみたいにいきなり何かな?」 いそいそと七分丈のパンツをずり上げながら、美晴子が訊ねる。「聞いて聞いて。一大事やよ」「何が一大事なのよ」「さっき、いきなりピンときたんやちゃ」「だから、何?」投稿者:クロノ...
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特大家族 第二章 リセットスイッチ その13 (小説)
旅館時代のカラオケラウンジを改装した地下一階の音楽室には、かつてのバーラウンジにあった国産のグランドピアノが半ばオブジェとして設置されていた。 定期的な調律こそしっかり行われているものの、元々それほど高価な品ではなく、音色も響きもどこか浅い感じがする代物である。 少なくとも覇斗が以前に軽い気持ちで弾いてみた時にはそんな印象だった。しかし今、そのピアノは、本来のポテンシャルを遥かに上回る重厚な音を...
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特大家族 第二章 リセットスイッチ その12 (小説)
「『ライトニング』 が好きなの?」 検索したらこれもいっぱいヒットするだろうな、と思いつつ、楓はちょっとだけ皮肉っぽく尋ねた。「だって速そうな感じがするだろ。事実速いんだ」「どんなふうに速いの?」「相手からしたら、『押さえつけたかと思ったら逆に押さえつけられていて、何が起こったか全然わかんない』 ってくらい」「ムチャクチャ凄いじゃないの、それ」投稿者:クロノイチ...
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特大家族 第二章 リセットスイッチ その11 (小説)
再び覇斗の部屋である。楓は中に入ってくるなり、深呼吸をし始めた。 覇斗が理由を聞くと、「さっきびっくりしてまだ心臓がドキドキしてるから、落ち着きたい」とのことである。「だったら、気分が落ち着くハーブティーでも飲むかい? 市販のブレンド品だけどね」「いただくわ」 ティータイムの間、二人は自分の好きな音楽について雑談していたが、そのうち覇斗が楓の相談を受ける形になった。投稿者:クロノイチ...
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特大家族 第二章 リセットスイッチ その10 (小説)
六月十二日(水) この日は楓が珍しく第二便のバスで帰ってきた。いつもより宿題が多いからという微妙な理由でピアノの自主練習を早めに切り上げてきたらしい。 しかし、あながち嘘でもないようで、午後六時に覇斗の部屋にやってきた彼女は、数学の問題集と筆記用具を持参していた。「覇斗君。わからない問題があるんだけど、教えてくれる?」 そう言って楓が開いたページに載っていた問題は、意外にも覇斗にとってそう難しく...
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特大家族 第二章 リセットスイッチ その9 (小説)
午後十時。覇斗の部屋には既に速彦の姿はなく、替わって楓がやって来ていた。 今日は楓が最終便のバスで帰ってきたため、指相撲に勤しむ時間はあまりない。ただ、昨夜の二人の間の取り決めで、たとえ数分しかできないとしても、練習は必ず毎日行うことになっている。「ごめんね、遅くなって。その代わり、注文の曲はキチンと明日聴かせてあげるから」「待ち遠しいな」「先生のお墨付きよ。きっと凄いんだからね」 楓はあたかも別...