category: Menu:05 Anthony's CAFE 文化部 2/17
菓子の貸し (ショート・ストーリー)
弟は家に帰ってくるなり、死にそうな声でこう言った。「腹、減った。姉ちゃん、なんか食べるもの、ないか?」 結構ひもじそうである。部活動でエネルギーを使い果たしたのだろうか。「あ、ちょっと待ってて」 冷蔵庫と食品戸棚を調べてみる。 ── あら、珍しくなんにもないわね。投稿者:クロノイチ...
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明晰夢 その1 (ショート・ストーリー)
これは夢だ。 それははっきりしている。 その割にはどこもかしこもやけにリアルなのだが、まあ、きっと話に聞く明晰夢というやつだろう。 そうでないとおかしい。なんでこの俺が、カブトムシみたいな赤茶色のヨロイを着て、青白い光を放つ両刃の剣を振り回さなきゃならないんだ。 それも頭にツノの生えたでっかいイノシシ相手に。 夜、布団に入って普通に目覚めたらいきなりこうなっていた。投稿者:クロノイチ...
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十円玉 (ショート・ストーリー)
小遣いを使い果たしてしまった。財布には十円玉が一個だけ。 今朝、姉ちゃんに千円借りようとしたが断られてしまった。 「そんな金、ありませんえん」 だとさ。 頭の中に 「一番星見つけた」の歌が鳴り響く。 ただし、歌詞は 「一文無し見つけた」 に置き換わっていた。 まだ十円あるのに。 そうだ。 「もう十円しかない」 と思うんじゃない。 「まだ十円ある」 と思うんだ。 そうすれば ……投稿者:クロノイチ...
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柔の道 (ショート・ストーリー)
弟は部活で柔道をやっている。地区大会で優勝したそこそこの有望株だ。 明日はいよいよ県大会である。勿論目標は県チャンピオン。 「後輩にいいとこ見せてやるぜ」 と張り切っている。 ただ弟はちょっと身体が硬い。立位体前屈はマイナス十三センチである。 「柔よく剛を制す」 というけれど、柔になりきれないやつが、剛を制すことができるだろうか。 ちょっと不安である。 まあ、何はともあれ、夕食は鋭気を養うため...
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見解の相違 (ショート・ストーリー)
近所のおじさんが散歩している姿を最近よく見かけるようになった。 平日の日中に出会ったこともある。 仕事、やめたんだろうか。 近所の事情通のおばさんに訊ねてみた。「あの人、会社クビになったわよ」「ええ! いい人なのに」「そう?」 どうやら見解に相違があるようだ。投稿者:クロノイチ...
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首相 と マスコミ (ショート・ストーリー)
国会に向かう総理大臣にマスコミが殺到した。「総理、このたびの一連の不祥事についてどう思われますか?」 総理大臣は無言で歩を進める。「総理には任命責任があるはずですが? 総理、何かおっしゃってください」「……」「自分が任命した大臣が収賄をやらかしたのに、ダンマリはないだろ。あんた、それでも総理か!」 総理大臣は立ち止まって言った。投稿者:クロノイチ...
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湖の女神 その4 (ショート・ストーリー)
湖の女神が言った。 「あなたが湖に落としたのはこの金のオノですか? それとも銀のオノですか?」「金のオノです」「あなた、嘘をつきましたね。没収です」「けっ、このブース、バーカ」投稿者:クロノイチ...
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湖の女神 その3 (ショート・ストーリー)
湖の女神が言った。 「あなたが湖に落としたのはこの金のオノですか? それとも銀のオノですか?」「金のオノです」「あなた、嘘をつきましたね」「はい。嘘をつきました」投稿者:クロノイチ...
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湖の女神 その2 (ショート・ストーリー)
湖の女神が言った。 「あなたが湖に落としたのはこの金のオノですか? それとも銀のオノですか?」「いえ、どれも違います。鉄のオノです」「あなたは正直者ですね。ご褒美にこの金のオノと銀のオノもいっしょに差し上げましょう」「それはありがたいんですが、この鉄のオノ、私のじゃありません」 女神は何千本もの鉄のオノを取り出した。投稿者:クロノイチ...
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湖の女神 その1 (ショート・ストーリー)
湖の女神が言った。 「あなたが湖に落としたのはこの金のオノですか? それとも銀のオノですか?」「いえ、どれも違います。銅のオノです」「嘘つき。オノは返しません」 木こりは、湖に消える女神を呆然と見送った。投稿者:クロノイチ...
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方向音痴 (ショート・ストーリー)
弟はかなりの方向音痴である。 何の変哲もない建売住宅の我が家の中でさえ、押し入れの戸と和室の襖を間違えて開けることが度々ある。 記憶力はそれなりにある奴なので、方向音痴としか言いようがない。 それを弟に指摘すると、矛先をそらしたいのか、妙なところに突っかかってきた。投稿者:クロノイチ...
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ふ う り ん (短歌)
ベランダの 四角い空に 風鈴がチリチリと鳴る 風は何処から?*我が家はマンションの2階。そのベランダは狭くて、洗濯機とハーブを育てているプランターを並べているだけ。 タマに椅子を持ち出して、ゆっくりとビールを飲むぐらい。 ガラス・フェンスで仕切られた向こう側は、1メートルちょっとの距離で裏の建売住宅と工場の壁。 本当に四角い空しか見えない。 そんなベランダに吊るしてある風鈴が、弱々しく鳴っている...
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残念 と 無念 (ショート・ストーリー)
「残念」 と 「無念」 という言葉があります。 ほとんど同じ意味に使われますが、よく考えると 「残」 と 「無」 は全く逆の言葉ですよね。 まあ、ちょっと調べればその辺の疑問はすぐに氷解するわけですが、面倒くさがりのいつもの姉と弟は会話の中でどんな結論を出すでしょうか。 弟が真面目な顏であたしにこう訊ねてきた。「姉ちゃん、『残念』 と 『無念』 って同じ意味だよな」「そうね」「『残念』 はわかるんだ。心残...
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四角い空 (短歌)
ベランダで 四角い空に 吠えてみる仕事無くても 酒呑みたいよ*フリーランスの仕事をしていると、仕事の受注が途切れてしまったら、即、金欠である。(笑) 普段からの多少の貯えも、日々の生活の中で消えていく。 ため息をつきながらもベランダに出て、気分転換、、、、 なんて、どす黒い雲なんだ、洗濯もできやしない、、、 飲みたい、呑みたい、、、 金が無くても、呑みたいよ!投稿者:庵祖兄...
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リニア (ショート・ストーリー)
弟が言った。「なんで 『リニアモーターカー』 なんだよ。 『リニアモータートレイン』 じゃないんか」 そんなことあたしに言われても困る。会社に聞け。検索しろ。 面倒なのでテキトーに答えた。「長くなるからじゃない? あんた何でも略称作るの好きだから、なんかいいの考えてみたら。そのうち略称募集があるかもよ」 「リモトレ」とか「リニトレ」ぐらいかな、と思っていると……。投稿者:クロノイチ...
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法事 (ショート・ストーリー)
親戚の法事で、親に連れられお寺に行った。 住職さんが物凄い速さでお経をあげる。 何を言っているのか全然わからない。 あ、昔の漢文だからゆっくりでも意味はわからないか。 親戚のおじいさんが 「なんまいだ」 と言う。投稿者:クロノイチ...
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なつぞら (短歌)
見上げれば 違い感じる 雲形に心ウキウキ 梅雨明けの空*梅雨の晴れ間に見る雲と、梅雨が明けた夏空に浮かぶ雲のカタチは、あきらかに違う。 「もう、梅雨が明けたよ」って感じで晴天が続いたとしても、夏の雲を見るまでは、梅雨が明けたっていう実感がない。 ウチの彼女が「夏雲って、入道雲のことと違うのん?」 って言ってきますが、そんな強い雨を降らす積乱雲とかとは違います. 秋の空に見えるような、うろこ雲 や い...
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墓地 (小咄)
墓地 の経営者が居酒屋で世間話をしている。「ところで、皆さん。経営状況はどんな按配ですか?」「うちは、はかば かしくありませんな」「こっちは利益が0円(れいえん)ですよ」「うちは、ぼちぼち です」「それは、うらめし、いや羨ましい。あやかりたいものですなあ。何か経営の秘訣があるんですか?」「まあ、なんていうか、それなりに 「コツ」 をものにしましてね」 おあとがよろしいようで。投稿者:クロノイチ...
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少年三遊亭団 (ショート・ストーリー)
その昔、「少年探偵団」 のパロディで、「少年三遊亭団」 というふざけたパロディを考えたことがある。 「怪人二十圓生(かいじんにじゅうえんしょう)」 という謎の怪盗に、小咄(こばなし)少年が率いる 「少年三遊亭団」 が挑むというものだ。 怪人二十圓生の名の由来である 「三遊亭圓生」 の名は、「柳家小さん」 と双璧をなす落語界の大看板である。 その名を無断借用している怪人二十圓生に、「三遊亭明智小五郎」 の弟...
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コンプレックス と コンプレッサー (ショート・ストーリー)
最近気付いたことだが、どうやら弟は 「コンプレックス」 と 「コンプレッサー」 を取り違えているようだ。「あいつ、俺にコンプレッサー持ってるようでさ」 そんなふうに以前弟が言った時には、まあ言い間違えだろうなと思って、敢えて突っ込まなかった。 で、昨日の弟の発言がこれである。 どうやらテストの成績がとっても悪かったらしい。「俺、もうダメだ。俺、頭も悪いし、要領も悪いし、性格もコンプレッサーの塊でさ...
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二階からメガスリー その3 (ショート・ストーリー)
CMの後、「二階からメガスリー」の後半部分が始まった。 しばらく戦闘シーンを見ていた弟が首を傾げ始める。「おかしい。今度の 『鼻水鬼(はなみずき)』、やたらと強すぎる。頭もいいし、余裕もたっぷりだ。もしかして、正体不明だった大首領なんじゃないか?」「怪人のこと、ハナミズキっていうの? 綺麗な名前ね」投稿者:クロノイチ...
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二階からメガスリー その2 (ショート・ストーリー)
弟イチ押しの特撮ヒーロー番組 「二階からメガスリー」 を今日も見せられることになった。 別にあたしはハマってなんかいない。 嫌々である。 いや、ホントに。 今日はなんかドロドロした話である。メガポイントが慢心から大失敗をやらかして、周辺の建物に損害を出してしまった。 いきなり明かりを落とした作戦室で緊急会議である。 それにしてもなぜ部屋を暗くするんだろう?投稿者:クロノイチ...
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二階からメガスリー その1 (ショート・ストーリー)
弟は最近妙な特撮ヒーロー番組に凝っている。 ありきたりの子ども向け集団ヒーローだと思う。でも、弟に言わせると 「センスがいい」 らしい。 あたしは別に何の興味もなかったのだが、なんだかんだで口車に乗せられて、一緒に録画を見ることになってしまった。 これが信者の布教活動か。恐るべし。 タイトルは「二階からメガスリー」。投稿者:クロノイチ...
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後悔先に立たず (ショート・ストーリー)
「後悔先に立たず」 という言葉がある。 当然だ。後で悔やむから後悔なのだ。 では、もし、仮に時空の法則をねじ曲げて後悔を先に立てることができたとしたら、どうなるのだろう。 幸せになれるのだろうか。投稿者:クロノイチ...
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舞台・羅生門 (ショート・ストーリー)
※時代考証は全くしていません。 新劇 「舞台・羅生門」 は初日から閑古鳥が啼く惨憺たる有り様だった。 最終日、舞台を見に来ていた原作者に新聞記者がインタビューを試みる。「芥川龍之介さんですね。取材させていただいていいですか?」「いいですよ。まあ、舞台はこんな体たらくですが、僕は原作を提供しただけですからね。責任は一切私にはありません。ですから遠慮せず何なりと訊いてください」投稿者:クロノイチ...
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小説の神様 (ショート・ストーリー)
唐突な質問だった。「よう、姉ちゃん。 『マンガの神様』 って誰か知ってる?」「手塚治虫でしょ。有名でしょ。知らないの?」「アチャー。 『オサム』 っていうんだ。 『オサムシ』 かと思ってた」「馬鹿ねえ。で、いきなり何でそんなこと聞いてきたの?」 あたしがツッコミを入れると、弟は慌てた様子でこう言った。投稿者:クロノイチ...
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騎馬戦GO! (ショート・ストーリー)
最近,我が家の庭にはハトが群をなして集まってくるようになった。 いつの間にかドバトがドバッと。ハトはキライじゃないが、フンが凄い。 クソッタレだ。糞害に憤慨している。フンガー! さて今日は日曜日だ。俺は居間で読書をしていた。やはりチェーホフはいいなあ。 ページをめくっているだけで、賢くなった気分が味わえる。 さすがは 「知恵豊富」。投稿者:クロノイチ...
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挑戦隊チャレンジャー・完全版 第二話「謎の戦神現る」 その5 (小説)
スーパーチャレンジアタックの直撃を受け、コーヒー党副総裁・マンデリーンは爆散した。 手柄を奪われた挑戦隊の面々が我先に挑戦神ラインズマンに詰め寄っていく。 「チャレンジ・マッハダッシュ!」 叫びながらただ走るだけだが、全員意味もなく速い。「何者だ、てめえ!」 ブラックウーロンが怒声を張り上げる。投稿者:クロノイチ...
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挑戦隊チャレンジャー・完全版 第二話「謎の戦神現る」 その4 (小説)
紅紅茶郎は挑戦部部員の到着を心待ちにしながら、 コーヒー党副総裁・マンデリーンが一人で切り盛りする露店スタイルのコーヒーショップの様子を陰で見張っていた。 一杯十円のコーヒーではあるが、実際に飲んだ生徒の感想を聞くに、「今まで体験したことのないかぐわしい香りと芳醇な味わい」だそうで、行列が途切れないのも至極当然といった感じである。(厄介だな。コーヒーの安売り自体は悪いことでも何でもないから、もしコ...
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挑戦隊チャレンジャー・完全版 第二話「謎の戦神現る」 その3 (小説)
モニターに映る紅紅茶郎は、修行の時に着る道着ではなく、年がら年中着ている紅茶色のハーフコート姿だった。 「紅さん。その風景……学園内ですね。学食の入り口の向かって右側に並んで立っている三本の菩提樹のうち、一番奥にある木の東側の幹が間近に映っています。樹皮の特徴からして間違いありません」 緑玉郎は無駄に詳しく紅茶郎の居場所を指摘した。投稿者:クロノイチ...
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