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第五十七幕 ザ・マジック・アワー

It's Only A Paper Moon. But・・・  映画『ザ・マジック・アワー』

映画『ザ・マジック・アワー』ポスター


ここは港街・守加護(すかご)。

 街を牛耳っているギャングのボス手塩幸之助(西田敏行)の愛人高千穂マリ(深津絵里)に手を出した「赤い靴」の支配人・備後登(妻夫木聡)。

 マリと備後の二人が、港ホテルの一室でねんごろのところに、二人の関係を知った手塩の腹心・黒川裕美(寺島進)らが押しかけてくるところから映画は始まります。

 手塩の前に引き出された備後は、マリのとりなしもあって、伝説の殺し屋デラ富樫(?)を手塩に引き合わすことを条件にその場は救われます。
 
 が、命惜しさに、出まかせで、デラ富樫の知っていると答えてた備後にデラ富樫を探し出す当てはなく、むなしく時はただ過ぎていき、約束の期日が迫ったとき、窮地に立たされた備後に閃いたのは、デラ富樫の替え玉を用意することでした。

 かくして、備後は、映画撮影所から、売れない俳優・村田大樹(佐藤浩一)を、撮影と偽って、首尾良く連れ出し、台本なしのぶっつけ本番とばかりに、村田を手塩に引き合わせます。

 手塩が、伝説の殺し屋・デラ富樫にぜがひでも会いたかったのは、デラ富樫が、街で対立する対抗勢力のもう一方のボス江洞潤(香川照之)に雇われ、手塩の命を狙ったからでした。

 事務所にはその時の弾痕の跡が生々しく残っていました。

 映画の撮影と信じて疑わない村田は、本物のギャングの手塩の前で、余裕で演技を繰り広げますが、事情を知った備後は真っ青でした。

 かくて、スクリーンにアップで映しだされる自分の姿にあこがれる村田と、うすうすなにかおかしいと感じてる村田のマネージャー長谷川謙十郎(小日向文世)と、本物のギャングたちと、備後の嘘がばれないよう備後をサポートする「赤い靴」の従業員・鹿間隆(伊吹吾郎)、鹿間夏子(綾瀬はるか)、港ホテルの女主人マダム蘭子(戸田恵子)たちとが繰り広げる、誤解が誤解を呼ぶこの騒動は、・・・。

 マジックアワーとは、日没後の、「太陽は沈み切っていながら、まだ辺りが残光に照らされている、ほんのわずかな、しかし最も美しい時間帯」を指す映画用語です。かつて見た映画「暗黒街の用心棒」のニコ(谷原章介)にあこがれて映画俳優となった村田が、見事な夕焼け空をバックに説明します。
 
 まるで、セットのように見える、Y字路にたつ、港ホテルから始まるこの映画は、虚虚実実、うそとまことが、入り乱れます。
 
 そんな物語の中、マリが手塩に所望され、クラブ「赤い靴」で歌うシーンで、マリは、三日月のセットに腰掛けて歌を唄います。
 
 この三日月のセットが意味するものがこの映画の主題です。


 Say it's only a paper moon
 
 Sailing over a cardboard sea

 But it wouldn't be make believe
 
 If you believed in me

 
 ボール紙に書いた海の上に浮かぶ紙の月でも、あなたが僕を信じてくれるなら本物になる


 映画「ペーパームーン」でおなじみの唄の内容そのままに、映画作りを支える製作スタッフらが結集して、ギャングや殺し屋に立ち向かった時、嘘から姿をあらわす本物。

 ビリー・ワルダー風に、三谷幸喜がコメディで綴ってわたし達をいざなった作り物のような港街での物語「ザ・マジックアワー」。

 良質な作品です。




投稿者: 今井 政幸 


『ザ・マジック・アワー』 公式サイト



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第五十六幕 JUNO/ジュノ

ジュノが見つける真の愛     映画『JUNO/ジュノ』

映画 『JUNO/ジュノ』


季節は秋。始まりは椅子だった。

 バンド仲間のポーリー(マイケル・セラ)との一回のセックスで妊娠してしまったジュノ(エレン・ペイジ)はまだ16歳の高校生。

 親に知れずに堕胎が出来るクリニックで中絶しようとしますが、病院前で、中絶反対運動をやってる同級生の、「赤ちゃん、おびえているわ。痛みも感じるし、ツメも生えてるのよ」の言葉が効いてか、堕胎を止めました。

 真っ先に妊娠を打ち明け、相談相手になってくれてる親友リア(オリヴィア・サルビー)と一緒に、ペットの里親募集欄と並んで出ている、情報誌の養子縁組欄で、裕福なカップル、マーク(ジェイソン・ベイトマン)とヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)を見つけ出し、父マック(J・K・シモンズ)、継母ブレン(アリソン・ジャネイ)に、事情を説明します。

 娘の打ち明ける重大発表が、ヤクでも、退学処分でもないことに安堵する親たちは、申し分ないジュノの提案に賛同します。

 さっそく、高級住宅地にあるマーク夫妻の家を訪れるジュノと父。

 養子提供の代償に多額な金額を要求されるやもと考えてもいたマーク夫妻は、ジュノの、高校生の自分には生まれてくる子供に満足な養育を与えることは出来ない、という率直な説明を聞いて安堵。

 かくて、養子縁組は無事成立します。

 冬が来て、ジュノのお腹は順調に大きくなって、超音波検査で、はっきりと赤ちゃんの画像が映し出される程に。

 ジュノは、すぐに、写真を手に、マーク夫妻を訪ねます。ヴァネッサは留守でした。

 すでに、養子縁組時に、レスポールで盛り上がったジュノとマークは、意見の対立するホラー映画で盛り上がり、そこに帰ってきたヴァネッサが訝るほどに、ジュノとマークと接近していて、そんなジュノの内心を見透かしたかのように、継母ブレンは、「世の中には、ルールがある」とジュノをたしなめるのでした。

 春が来て、ポーリーが、女の子を、プロム(学年の最後に催されるフォーマルなダンスパーティ)に誘ったと聞いて、ジュノはポーリーに怒りをぶちまけますが、ジュノのお腹の子の父親が自分でありながら、蚊帳の外に置かれていたポーリーは、逆に、ジュノにくってかかります。

 さらに、ポーリーが、好意を寄せてると解釈してたマークは妻と別れるとまで言い出して。

 マーク夫妻の離婚の危機を知って、ジュノが父マックに問います。

 「ふたりの人間は永遠に一緒にいられるの?」

 父マックも、ジュノの実母とは離婚しています。父は答えます。

 「何より大事なのは、ありのままのお前を愛する人を見つけること」。

 夏が来て、ジュノは、・・・。


 映画プロデューサーが、ネットサーフィン中に彼女のブログを見つけ、その面白さに夢中になって、シナリオを発注したディアブロ・コディの始めての脚本が、アカデミー賞をとりました。

 シニカルなブラックジョークで味付けされた鋭い人間批判は、同時に、ジュノの幸せを願う暖かな優しい目を持っています。

 ウディ・アレンを思わす知的ジョークは、人生の機微を的確に見通して小気味よく、なお、幾層も多重に知恵が積み重なっていて奥深いです。

 
 キュートなエレン・ペイジに、ころっとやられる映画「JUNO/ジュノ」を堪能あれ。




投稿者: 今井 政幸 


『JUNO/ジュノ』 公式サイト



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第五十五幕 ぐるりのこと。

噛みしめる味わい  映画 『ぐるりのこと。』

映画 『ぐるりのこと。』 ポスター

 
 美大で知り合った翔子(木村多江)とカナオ(リリー・フランキー)はいつしか一緒に暮らしていたが、結婚式もあげてはいませんでした。

 翔子は、絵画とは無関係の、小さな出版社で編集者。カナオは、靴修理屋に。

 そんなカナオの前に、テレビ局に勤める夏目先輩(木村祐一)が現れ、カナオの画力を見込んで、カナオに法廷画家の職を斡旋するのでした。

 諸井(八嶋智人)にほおっておかれて、右も左も分からない初日のカナオに、他局ながらも、安田(柄本明)がなにかとカナオの面倒をみてくれて、ようやく、なんとか、法廷画家、カナオの初日が始まりました。

 どんなことがあっても、決めたことはきちんとこなさないと気が済まない翔子。

 その場の気分のありようで、融通無碍にことを処したいカナオ。

 二人の性格は必ずしも一致していません。

 カナオの優柔不断さに業を煮やした翔子は、別れる、と言い出したりもします。

 収入の乏しいカナオを、翔子の母(倍賞美津子)も、兄(寺島進)も兄嫁(安藤玉恵)も、決して快く思ってはいませんでしたが、翔子に赤ちゃんも出来たことから、不動産屋で、羽振りのよい、妹思いの兄は、多額の祝いの金を差し出すのでした。

 しかし、生まれてきた赤ちゃんは、すぐに、その幼い命を失いました。

 初めての子供を失った翔子は自分を責め、次第に、心を病んでいきます。

 兄の薦めで、引っ越しをする翔子でしたが、ささいなことにも怯えて反応する翔子の鬱さは、誰の目にも明らかになっていくのでした。

 「連続幼女誘拐殺人事件」。「オウム地下鉄サリン事件」。「音羽幼女殺害事件」。「池田小児童殺傷事件」。

 カナオが法廷画家として立ち会った事件を通して、病んでいく日本の社会の姿も垣間見られます。

 敏感に欺瞞を感じ取り、いたたまれなく、会社を辞めた翔子は、心療内科に通院するのでした。

 この映画は、夫婦が、苦悩を味わいながらも、やがて、明るい日々を取り戻す、二人の強靱な絆を描いています。

 苦悩と苦痛の末に得た明るさと喜びは、夫婦二人だけが、確かな実感として体得しえたものでしょう。

 映画は決して詳しく翔子の回復する過程を説明するものではありません。

 「どうして私と一緒にいるの?」

 「好きだから、一緒にいたいと思っているよ。」

 カナオの、決して翔子を離さない決意と、たまらず翔子が逃げ込んだ庵がいつしか翔子の心を癒したことなのでしょう。


 二人だけの、噛みしめた味わいが滲み出る、映画「ぐるりのこと。」、捨てがたい作品です。




投稿者: 今井 政幸 


『ぐるりのこと。』 公式サイト



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第五十四幕 メタルマクベス

ヘヴィメタ・サウンドが吠える   ゲキXシネ『メタルマクベス』


メタルマクベス


 ゲキXシネ「メタルマクベス」は、2006年に公演の、劇団☆新感線の舞台「メタルマクベス」の映像化作品です。脚色は宮藤官九郎。

 2206年。荒野と化した東京は、いくさが繰り返されていました。

 いくさで勝利を収めたESP王国の将軍ランダムスター(内野聖陽)は、親友エクスプローラー(橋本じゅん)と共に、城へと帰る途中、三人の魔女に逢います。

 魔女達は、ランダムスターに、彼がいずれは王位につくことを、エクスプローラーには、王にはならないが、王を生み出すことを告げるのでした。

 おなじみシェークスピアの『マクベス』を脚色したこの「メタルマクベス」は、魔女達が、ランダムスターに、予言めいた曲が入っている、1980年代に活躍したヘヴィ・メタルバンド「メタルマクベス」のCDを手渡したことから、舞台は、2206年の「マクベス」になぞったESP王国の物語と、1980年代の、メタルバンド「メタルマクベス」のメジャーデビューの様子とが交互に進行していきます。

 メタルバンド「メタルマクベス」は、その実力でファンをつかみ、メジャーデビューを果たそうとしていました。

 メタルマクベスを売り出すべくプロダクションもつきますが、その元社長(レスポール王:上条恒彦)は息子、元きよし(レスポールJr.:森山未來)を演歌歌手として売り出すべく、メタルマクベスは、そのバックバンドとしての地位に甘んじなければなりませんでした。

 そんなメタルマクベスを、メタルバンドとして売り出すべくローズ(ランダムスター夫人、林B:松たか子)がマクベス内野(ランダムスター:内野聖陽)に言い寄るのでした。

 かくして、メタルマクベスは、メジャーデビューを果たし、CDも発売の運びとなるですが、その後の路線の行き違いから、マクベス内野は、メタルを良く思わないパンク・グループに取り込み、バンクォー橋本(エクスプローラー:橋本じゅん)を追い落とすのでした。 

 宮藤官九郎が仕掛けたこの二重構造によって、舞台にはヘヴィメタ・サウンドが充満し、レスポール王を暗殺するランダムスターの野心が激情となってほとばしります。

 『マクベス』をヘヴィメタ・サウンンドで彩る大胆なこのアイデアに、わたしたちの心は否が応でも躍ります。

 くわえて、魔女達の予言が的中したが故に、王殺害後、新たな王の誕生との予言におびえ、遂には、夫婦共に破滅を迎える『マクベス』の物語が、バンクォー橋本を亡き者とした後の、グループの衰退と、その衰退をもたらした原因が、マクベス内野とローズの、(才能の)小さな者が大きな者をめざしたがゆえに迎えた破綻として補足説明されます。

 メタルバンド「メタルマクベス」の曲目に、わたしたちもシャウトせずにはいられない、ゲキXシネ「メタルマクベス」。

 これにのれなきゃ、損かも!




投稿者: 今井 政幸 


『メタルマクベス』公式サイト




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第五十三幕 光州5・18

笑顔が消えた婚礼写真    映画 『光州5・18』

 1980年。前年・10月、パク・チョンヒ大統領が暗殺された韓国では、同・12月にチョン・ド・ファンがクーデタで軍部を掌握したとはいえ、3月には、ソウルの春と呼ばれる、民主化のムードが各大学に高まっていた。

 が、5月17日。チョン・ド・ファン国軍保安司令官が権力を掌握し、全国に非常戒厳令を敷きます。さらに、空挺特別部隊を各大学に進駐させ、学生達の暴動にそなえるのでした。緑濃い、のどかな田園風景の広がる光州。チョンナム大学もまた、戒厳令の軍隊に囲まれました。

 そんな緊迫感とは無関係に、カン・ミヌ(キム・サンギョン)は、高校生で、ソウル大学をめざす、親が死に、二人だけでいる、弟ジヌ(イ・ジュンキ)と教会で一緒してる、お目当てのパク・シネ(イ・ヨウォン)と念願の、3人デートが叶い、映画館で、共に映画を楽しんでいました。

 映画も佳境に入ったとき、館内に催涙ガスが流れ込み、扉を開けて、逃げまどう学生が入ってきます。映画館の外では、異変が起きていました。チョン・ド・ファン辞任を連呼する学生たちに対し、軍は、情け容赦なく襲いかかっていたのでした。

 軍にこん棒で滅多打ちされる学生たちは血まみれ。逃げまどう学生たちすらも、しつこく軍隊に追われるのでした。慌ててその場から立ち去ろうとする市民の流れに押され、はみ出たシネも、学生と間違われ、しつこく戒厳軍に追い狙われてしまう程でした。

 翌日、ジヌが高校に行ってみると、親しい友人の机の上に、弔いの花があったのでした。

 この映画は、当時、暴徒として弾圧、射殺されながらも、実は、怒りに燃え立ち上がった、光州市民たちの、軍隊と戦った、光州事件の記録です。

 過去にあった、悲惨な出来事を忘れまいとする強固な意志が、映画を支えます。荒削りの、決して緻密に構成されつくしたとはいえないがさつな作りのこの映画が、それでも、われわれの目を離さないのは、理不尽な作戦によって命を奪われた人たちへの哀悼と、賞賛と、反省が窺えるからでもありましょう。

 みんなの笑顔で溢れた記念写真と、花嫁の笑顔が消えた、死後結婚写真。対比する二枚の写真が静かにわれわれにさとす、過去の物語は、重く心にのしかかるのでした。




投稿者: 今井 政幸 





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別館 第四幕 アフタースクール

 映画 『アフタースクール』 ブラボーでやんす!これ今年のベストワン。驚いた。

アフタースクールのポスター


 映画 『アフタースクール』 の例によって、Yahooの感想では、この映画に「騙された」とか、それが「快感だ」とかの感想があるのだけれど、すかす、わたすは、こゆ感想の人たちがまだ本当に騙されていることには全然気づいていないのではないかと、思ってしまう。

 映画はどんでん返しに次ぐどんでん返しで、ラストになって、ようやく、わたすたちは、そうゆうことだったのかと気づかされるのだけんど、この映画は、中学校の同級生が大人になって再会し、互いにどう変わったか(あるいはどう変わらなかったか)を確かめる映画でもあるのだが、この確かめるってことが実は本当はとってもあやふやなことだという、思いこみからくる誤解をシリアスに扱っている。

 シリアスとは、世の中は、自分がそう見るからそう見えるだけにすぎない。

 人はみなそれぞれに異なった世の中を(勘違いしながら)見ている、という大マジの真実・真理を、言及しているからなのだ。

 映画のラストのラスト、タイトルが終わった後に、テレビがニュースを報じている。

  わたすたちにそれまでの物語の結末がどうなったかを知らしめるためのニュースでもある。

 普段わたすたちはテレビからこのようなニュースを受け取っている。

 が、すかす、当事者でもないわたすたちはそのニュースの実体をほとんど知らない。
 
 が、それまでわたすたちがこの映画で語られていた事件に関連したニュースだから、わたすたちは、誰よりも、この同じニュースを見たどの他の人たちよりもよく事件の内容をよく知ってるはずだ。

 が、果たして、そうなのか?

 いんや、わたすたちは、実は、事件の内容をよく知りはしない。

 ただ、それまでの事情をある程度映画によって教えられてきたから、よく知っていると錯覚しているだけだ。

 なにも知りもしないのに、あたかも知っているかのように思ってる、わたすたち。

 この思いこみを知らしめるために、「アフタースクール」がある。

 それは、わたすたちが、テレビを見る「受け身」の姿勢では決して物事の真実は何も見えていないし、自分で勝手に想像で思いこんで、あいつは、こゆ人間だと間違って決め込んで、その実、実体はなにも知らない。

 知らないくせに知ったつもりでいる。


 ある意味、世界から「騙されている」ことを気づかせるための映画の騙し作戦にまんまと嵌ったことなのだった。

 
 この知的映画に乾杯!



投稿者: 今井 政幸 


『アフタースクール』 公式サイト




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第五十二幕 チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

びっくり仰天現代史     映画『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』


映画『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』 ポスター 国内版&海外版
映画『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』 ポスター 国内版&海外版


 ラスベガスで混浴を楽しんでたテキサス州選出の下院議員チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)がふとテレビを見ると、ソ連軍に侵攻されたアフガニスタンからのレポートで、ソ連軍と戦うムジャヒディンにインタビューしているものが映しだされていた。

 国防歳出小委員会のメンバーの一員でもあるチャーリーは、ワシントンに戻ると、事務方を呼びつけ、情勢を訊き、アフガニスタン支援の予算がたった500万ドルと知るや、すぐさま、自分の権限で予算の倍増を促した。

 チャーリーが指示した予算増額の件は、国家機密というに、チャーリーの選挙区の大富豪ジョアン(ジュリア・ロバーツ)の知るところとなり、反共主義者のジョアンはチャーリーをテキサスの自宅に呼びつけ、アフガニスタンに侵攻したソ連を撤退さすよう、すでに自分がセッティングずみの、パキスタン大統領との会談をチャーリーに促す。

 選挙区の大物後ろ盾であり、恋仲でもあるジョアンの申し出をチャーリーは断られず、しぶしぶ大統領(オーム・プリー)との会談に臨むが、将軍たちも交えた大統領との会談の場で、チャーリーは、現状に対するアメリカの無理解さをなじられ、よりいっそうの武器と資金の提供を要求される。

 大統領が用意したヘリに乗り込まされ、国境の難民キャンプでチャーリーが見たものは、母国から命さながら逃げて来た大量の人々があらそって食料を求める姿であり、ソ連が、とりわけ子供たちを狙ってばらまいた、おもちゃに似せた爆弾を拾って両手を失った少女の姿だった。

 すっかり打ちのめされたチャーリーは、帰国する機上の中で、CIAの担当役職を呼ぶよう、彼の美人秘書ボニー(エイミー・アダムス)に指示するが、翌日、チャーリーのもとにやってきたのは、問題児のため、局内でほされていたガスト・アブラコトス(フィリップ・シーモア・ホフマン)だった。

 下っ端CIAでは役に立たないと怒るチャーリーに、ガストは持参した上等ワインでチャーリーをなだめる。

 折しも、チャーリーの身辺に、先日のラスベガスで犯した、麻薬吸引嫌疑がかかってるとの極秘の報が届く。

 刑事事件の報に慌てた、チャーリーは、ガストを部屋からおいだすが、ガストは、とある方法で、そのチャーリーの慌てぶりの原因の一部始終を熟知するのだった。

 ガストの異能さを知った、チャーリーは、さっそくガストと組み、かくしてソ連軍撃退作戦の火ぶたが切っておとされました。

 この映画の物語は、事実に基づいていて、以後、映画が描く、チャーリーの果たした外交手腕、アメリカの介入をおくびにもださないで、アフガニスタンに武器を供給する方法は、国際「裏」舞台での仕組みを見事に暴きます。

 ソ連は、被害増大の結果、1989年にアフガニスタンから完全撤退し、ソ連が崩壊したのは1991年、アフガニスタン撤退から3年後のことでした。

 冗談みたいだけど史実の、ソ連を壊滅させた(かもしれない)、チャーリーとジョアンとガストの物語は、ガストが一生懸命チャーリーに言いたがる、塞翁が馬のエピソードが、結果、9.11でアメリカが手痛いしっぺ返しを受けたその後の史実を辿ると、決して看過できない、重みをもってわたしたちに迫ります。



 トム・ハンクスの誠実さとお気楽ぶりに目を奪われると足下をすくわれる、この映画は、わたしたちに世界戦略の裏の駆け引きを存分に教えてくれる一作でもあります。




投稿者: 今井 政幸


『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』 公式サイト



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第五十一幕 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

見事に掘り出した人間の業    映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

映画 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 ポスター 海外版&国内版
映画 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 ポスター 海外版&国内版

 ひとり地中から金を見いだしていた山師ダニエル・プレンビュー(ダニエル・デイ=ルイス)は、やがて仲間たちと石油の採掘をはじめます。
 
 そんなダニエルに、金欲しさから、ポール・サンデー(ポール・ダノ)が、故郷の、有力な油田情報を持ち込んできます。

 半信半疑ながらも、情報を買ったダニエルが、さっそく教えられたサンデー牧場をリサーチすると、そこには、地震の影響もあってか、地表に石油が滲み出ていました。

 プレンビューは、すぐさま一帯を安値で買い占め、村人との採掘交渉もまとめ、アメリカ西部の小さな町リトル・タウンでの石油掘削が本格的に始まりました。

 リトル・タウンには教会があり、ポールの弟、イーライ・サンデー(ポール・ダノ:二役)が牧師で熱心に布教活動をしていました。

 イーライは、当初、息子H.W.(ディロン・フレイジャー)の健康保養のためとしたプレンビューの土地買い占め理由の嘘を見破り、教会への5,000ドルへの寄付を条件につけました。

 しっくりいかない、プレンビューとイーライとの間は、息子H.W.の治癒の件をめぐってや、海までのパイプライン延伸に必要な土地の所有者がイーライの信者であったことから、延伸許可の取得のため、不信心者のプレンビューにとって、屈辱的な教団入会受け入れなど、ことあるごとに対立します。

 この対立はやがて思わぬ形で噴出するのでした、・・・。

 映画は、地下に眠る金や石油を掘り当てるプレンビューの姿を子細に描くことで、プレンビューの持つ野心、強欲、不信心、人間不信、荒げた暴力、非人間性といった、人間の隠し持つ業の深さを丹念に掘り起こしていきます。

 計算され尽くした音楽が、登場人物の心情の内面を代弁するかのように見る者のイメージを掻き立て、映画に奥行きを与えます。

 がっしり組まれた緻密な骨格を持ったこの映画は、人間の奥深くに潜む業を見事に引き出し、善悪を超越したその業の圧倒的な凄まじさを前にしてわたしたちは思わず息を止めます。


 凄まじい力量を持つ映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を堪能あれ。




投稿者: 今井 政幸


『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 公式サイト



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第五十幕 フィクサー

良心のめざめ      映画 『フィクサー』

映画 『フィクサー』 海外公開時のポスター



 冒頭、画面にかぶるナレーションは、弁護士アーサー(トム・ウィルキンソン)が、同僚マイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)に宛てた、彼のとった奇妙な行為の説明であり、心情吐露であり、信念の告白だった。


 農薬会社U・ノース社は、農民たちから訴えられた集団農薬訴訟の和解へと慌ただしく動いていた。

 新しく担当責任者となった法務部本部長カレン(ティルダ・スウィントン)は、テレビのインタビューへ受けるが、彼女のテレビインタビューのありさまと共に画面は、カレンが自宅でするインタビューへの念入りな下準備の様子までも映しだす。

 カレンが、首尾良く農民たちからの集団訴訟を乗り切ろうとしていた時、アーサーの、訴訟の大詰めの場でとった奇行がU・ノース社に伝えられる。

 アーサーは、雇われの立場でありながら、農薬会社の非を認め、農民たちに自分が彼らの側に立つことと、自分の清廉さを信用してもらうためにと、詰めの場で、衣服を脱ぎ、裸になったのだった。

 この唐突なアーサーの奇行は、事後処理係のマイケルを困惑させたし、アーサーのいいわけをすべて信じることも出来なかった。

 が、アーサーは死んだ。警察はアーサーの死を自殺と判断する。

 アーサーの死を不信に思ったマイケルは実弟の刑事に頼みこみ、独自に、違法な、アーサーの自宅を捜査する。

 マイケルに事件への疑念が沸いてきた時、マイケルはいきなり被害にあう。彼もまた狙われていたのだった。


 製作総指揮にジョージ・クルーニー。製作にシドニー・ポラックが名を連ねるこの映画は、一見社会派の様相をとりながら、しかし、映画が克明に描くのは、マイケルが対決するカレンの、緊張時にトイレに駆け込み、脇下の汗を気にする様子は、動揺を隠せない心の緊迫感の表れであり、罪悪感の表れです。

 カレンの、念入りな、テレビインタビューへの練習の様子。

 衣服を念入りにチェックし、人から自分がどのように見えるか気をくばるカレン。

 これらは、カレンの、内心、犯した罪悪におびえる気の小ささであり、アーサーが職務を放棄して、農民側の正しさを認めた良心のめざめにも通じます。

 カレンの脇下に滲み出た汗と共に重要な、詩的な、三頭の馬がのどかに放牧されているシーンは、東方の三賢人、東方の三博士をも連想させて、映画は、ありきたりな、社会派告発劇と一線を画して、誘惑に負けない、崇高な、人としてのあり方を主張します。

 
 飲んだくれで、マイケルの財産を食いつぶした、もう一人の、ろくでなしの弟に、最後は助けてもらうマイケルの複雑な心情をも的確に描写した映画「フィクサー」は渋さ満点!



投稿者: 今井 政幸


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第四十九幕 ブラックサイト

リアルな、インターネット社会への警鐘  映画『ブラックサイト』


『ブラックサイト』 ポスター


 捕まえてきた猫に仕掛けをほどこし、猫の様子をカメラで捉え、ネットで配信する。
 
 一見どこにもありそうなこのサイトが他と違うのは、アクセス数が増えたら、その分、罠が早く働き、ついには、猫を死に至らしめる仕掛けが施されていることだった。

 サイト名は、「killwithme.com」。

 アクセス数の増加によって、猫が死に至らしめられたこのサイトが次に映しだした標的は男性だった。

 縛られ、口をふさがれ、体を固定され身動き出来ない男性の胸は、killwithmeと切り刻まれている。そこには、サイトへのアクセス数の増加に比例して、抗凝血剤液の投与量が増す仕掛けが施されていた。

 事件発覚後、当局の無神経な発表もあって、サイトへのアクセス数はいっきに増加し、やがて、男性は、その一部始終を全世界から見守られ、死をむかえる。

 原題を、Untraceable(追跡不能)とするこの映画は、 インターネットが持つさまざまな利便性を逆手に取り、インターネットがたやすく犯罪に利用されることの危険性を描く共に、ネットの持つ、犯人の追跡不能性、そして、わたし達のネットの閲覧行為が、共犯行為となって、犯罪を促進するという、ネットの悪魔的仕掛けの実体を明かしてくれている。

 killwithme.com の開設者、オーウェンの犯行動機は、ネットの犯罪性を糾弾することであった。

 ネットの犯罪性とは、テレビクルーが偶然見かけカメラに収めた、とある人物の自殺を報じたテレビ画像が、ネットで貼り付けられたことで、自殺者の関係者たるオーウェンの心は深く傷いたのだが、そのオーウェンの傷の痛みを逆撫でするかのように、画像のコピーと貼り付けがあちこちのサイトで繰り返し行われ、いともたやすくに他人の不幸を広く世間に煽るネットの機能、そして、自殺画像を、まるで、楽しむかのように繰り返しサイトにアクセスする無神経な者のアクセス行為だった。

 オーウェンが仕掛けた、アクセス数の増加によって死が早まる、という装置は、実は、ネットの機能の持つ犯罪性と、興味本位の好奇心とか、殺人に荷担したいがためとか、理由はどうあれ、結果的に、killwithme.comにアクセスすることで、人を死に至らしめているネット閲覧者の持つ犯罪性を厳しく諫める装置でもあった。

 しかし、物語は、中途、オーウェンのこの復讐劇、復讐理念から外れ、殺人者オーウェンを追うFBIネット捜査班へ向けられたオーウェンの犯行へと変わる。

 映画は、ネット犯罪を監視するFBIサイバー捜査官ジェニファーを軸に語られている。オーウェンの逸脱した復讐心は、ジェニファーの同僚グリフィンを襲い、やがてジェニファーをも襲う。

 この作品のあちこちに散りばめられた異様な猟奇性がネットの異常さを的確に浮き上がらせてもいるが、復讐心に燃えたオーウェンの癒しがたい心の傷が、FBIサイバー捜査官に向いた本末転倒さから、映画は、B級アクション映画の枠内をついぞ抜け出せなかった。

 ジェニファーが誇らしく、ネット閲覧者に掲げたFBIバッチに、制作者の、閲覧者は物事を正しく判断せよとの願いとメッセージが込められてはいるが、この映画の醍醐味は、繰り返し、繰り返し、オーウェンが標的としたジェニファーの家を、あたかもねめ舐めるかように、カメラが静かにゆっくりパンするシーンにある。

 音も立てず、無言で、ただじっと、繰り返し、ジェニファー家を幾度も写し撮るカメラ。

 これが、オーウェンが、なによりも糾弾せずにはいられなかった、ネット閲覧者が内心に持つ犯罪共犯者の犯罪性の正体そのものであり、映画は、唐突に、音量がアップするシーンを巧みに挿入することで、音も立てず覗き見てる閲覧者を、諫めてもいるのだった。



投稿者: 今井 政幸


『ブラックサイト』 公式サイト



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第四十八幕 つぐない

罪と贖罪       映画 『つぐない』



映画 『つぐない』ポスター



 創作力・想像力が共に旺盛な、タリス家の13歳の少女、ブライオニー(シアーシャ・ローナン)は、じき友達ポール・マーシャル(ベネディクト・カンバーバッチ)を連れて家に帰ってくる兄リーオン(パトリック・ケネディ)に演劇を見せようと、戯曲を執筆中です。

 ブライオニーがふと手を休め、窓の外をみやると、姉のセシーリア(キーラ・ナイトレイ)が、タリス家の使用人の息子ロビー・ターナー(ジェームズ・マカヴォイ)の前で、下着姿になって、噴水に飛び込む様子を見てしまいます。咄嗟に、見てはいけないものを見てしまったとブライオニーは慌てて身を隠します。

 使用人の息子ながら、ロビーは、タリス家から奨学金を出してもらい、セシーリアと同窓のケンブリッジに学びました。将来は医学の道をめざしています。

 そんなロビーは、母が磨いていた銀食器が用意されたタレス家の晩餐会に招待されています。

 昼の、セシーリアとのふとしたいさかいの詫びに、ロビーは詫びの手紙を書き、直接セシーリアに手渡せない後ろめたさから、途中であったブライオニーに手紙を託します。

 その手紙の中身は、詫びの文面のとは別に、ロビーが戯れに書いた、セシーリアへの熱烈な性的思いが綴られていたものでした。これを、ブライオニーは、すぐさま、盗み読みしてしまうのでした。

 セシーリアはロビーを好いていて、昼の二人のいさかいも、ロビーのつれない様子に苛立つセシーリアの思いからでした。屋敷で出会った二人は、すぐさま、図書室で、求め合います。

 そんな姉のロビーへの熱い思いを知らないブライオニーは、ロビーがセシーリアと体を重ねている姿を目撃してしまうのでした。

 事件は、そんな中で起きました。

 ライオニー達の従兄弟たち、ローラ・クィンシー(ジュノー・テンプル)や双子の弟たちが、親の離婚が元で、タリス家に引き取られていました。

 タリス家での泊まりも飽きた双子は、両親の元をめざしタリス家から逃げ出します。

 一同が慌てて晩餐を打ち切り、双子を捜索するという騒動のさなか、ローラが何者かによって襲われたのでした。

 偶然、その現場を目撃したブライオニーは、警察に、犯人の名を告げます。ブライオニーが警察に告げた名は、ロビーでした。

 状況証拠に、ロビーの卑猥な手紙も警察に差し出されます。

 ロビーが、ようやく、双子の弟たちを見つけて帰って来たとき、ロビーを待ちかまえていたのは警察でした。

 ブライオニーの偽証によって(後に、ブライオニーは、その場で見た犯人の顔を思い起こすのですが)、ロビーとセシーリアは裂かれました。

 牢獄に送られたロビーは、刑期短縮のため、おりしも始まっていた第二次大戦の戦場の最前線に志願して行ったからです。


 映画は、多感で、想像力たくましいブライオニーの誤解を、同じ場面を、視点を変えて、二度繰り返すことで、ブライオニーの内面の様子をも描くことで説明しています。

 幾度か同じ場面が繰り返えされる技法は、映画全体にも及び、最後の最後、わたすたちは、制作者による、心憎い、ブライオニーの気持ちを代弁する、ロビーとセシーリアへのつぐないを目にします。

 それは、後に作家となったブライオニーがようやく本当に自身で自覚出来た、自分が犯した、取り返しのつかないあやまちへの、せめてものつぐないでもありました。

 噴水に飛び込むセシーリア。川辺で犯されるローラ。ダンケルクで船を待つロビー。ロビーの気を惹こうと川の中に飛び込むブライオニー。海辺の家で戯れるロビーとセシーリア。


 水が、死のイメージを連ねてもいて、贖えきれない罪の重さを暗示する、映画「つぐない」は、味わい深い作品です。



投稿者: 今井 政幸


『つぐない』 公式サイト



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別館 第三幕 映画 『クロサギ』の評判が悪いにゃ

 たすかに、クロサギのシロサギを騙す痛快さを求めて映画館に行った観客にとってはブルータスごっこ、シーザーごっこは、引くもんな。

 わたすも引いたひとりなのだが。

 知人の分析によると、映画「クロサギ」は、文学なのねん。 人がどう生きるべきかをテーマとした作品。

 若造のまんだ人生の何かをも知らない山下智久が、百戦錬磨の山崎努、竹中直人に挑む物語。

 人生には、裏切りと、裏切りによって向かえる死がある。 人はなぜ生きてきて、どう死んでいくか。

 シロサギの竹中直人は、さんざん、人を騙したあげく稼いだ大金をカリブで豪遊するために使う。

 大金は、豪遊のために使うべきものなのか?

 なんとみみっちい、しみったれたことなのやら。

 そのシロサギを決して許さないクロサギ山下智久が竹中直人を欺しにかかる。

 他人を欺くシロサギは欺されて当然という思想だ。

 すかす、シロサギとクロサギとの欺しあいは、一歩間違えたらクロサギの命取りとなる真剣勝負だ。

 だから、裏切りのブルータスと、裏切られるシーザーだ。

 裏切られたシーザーに待ち受けてるのは、死。 シロサギを落とせないクロサギには死が待ちかまえている。

 素人芝居の舞台セットに設えられた棺桶の中に横たわって、山崎努は、待ちかまえている「死」を山下に教える。

 山崎がセットの棺桶をネタに、棺桶に横たわったり、出たりしてるのは、死と生を暗喩する象徴のシーン。

 山崎はむろんしたたかさを十分に持ちながらも、生と死を遊んでいる。

 山下の失敗の前には死が待ちかまえているのだが、詐欺師シロサギをどうしても許せないクロサギは果敢に竹中を追い落としにかかる。

 山下はせいいっぱい、クロサギ家業に専念することでしか、人生を生きていけない。

 山下がせいいっぱい力の及ぶ範囲で生きて行くことは、豪遊三昧にあこがれるシロサギの人生を否定することだ。少なくとも。

 人がその人生をどうせいいっぱい生きていくかの生き方はひとそれぞれ違うだろ。

 クロサギ山下が選んだ人生は、シロサギ竹中を追い落とすことだったということ。

 むろん、山下が失敗したら、そこに待ちかまえているのは、ブルータスに裏切られたシーザーが入った棺桶だ。

 生と死との狭間に立たされたクロサギの生き様を、文学的に、暗示した映画なのだが、ま、山下に魅力がもうひとつ足らなかったかね。



投稿者: 今井 政幸


映画 『クロサギ』 公式サイト

TV 『クロサギ』 公式サイト



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第四十七幕 マイ・ブルーベリー・ナイツ

ポップスと映像美のコラボが魅せる   映画 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』


マイ・ブルーベリー・ナイツ ポスター



 失恋したエリザベス(ノラ・ジョーンズ)が、彼が立ち寄ったカフェのオーナー、ジェレミー(ジュード・ロウ)に、不要になった彼のアパートの鍵を託そうとしたことから、二人の会話が始まりました。

 いつしか瓶の中に溜まってた数多くの鍵の、一つ一つにある別れの物語を、ジェレミーはエリザベスに語り聞かせます。

 失恋に傷ついたエリザベスは、「すべての出来事には理由がある」として、自分の責めます。が、ジェレミーは、いつも売れ残るブルーベルー・パイをたとえに、結果は、偶然でしかないと諭します。

 道一本隔てた向こう側に渡る勇気がないため、エリザベスは、遠回りして、向こう側にいくことに決めました。

 車を買うお金を稼ぎながらの、エリザベスのアメリカ横断の旅が始まりました。

 メンフェス、エリ、ラスヴェガス、ヴェニス・ピーチ。

 アメリカ横断の旅は、エリザベスの傷心旅行であり、自分探しの旅でもありした。

 旅先で出会った人たちから、エリザベスは、他人を通して自分の姿を見いだします。

 そんな自分の気持ちや旅の印象を、エリザベスは、手紙に書き綴ってジェレミーに送ります。

 飲んだくれの交通警官のアーニー(デヴィッド・ストラザーン)と、別れた彼の妻スー・リン(レイチェル・ワイズ)との凄絶な愛情。

 他人の言葉を信じない、カード賭博のレスリー(ナタリー・ポートマン)から伝授される人の心の読み方。

 出会った人たちから触発されたエリザベスは、やがて自分自身を取り戻し、ニューヨークで、渡れなかった向こう側へも行ける自信がつくのでした。

 ノラ・ジョーンズ「ザ・ストーリー」、キャット・パワー「リヴィング・ブルーフ」、ライ・クーダー「エリ・ネヴァダ」、オーティス・レデイング「トライ・ア・リトル・テンダネス」、ルース・ブラウン「ルッキング・バック」、ライ・クーダー「ロング・ライド」、メイヴィス・ステイブルズ「アイズ・オン・ザ・プライズ」、続木力「夢二のテーマ」(ハーモニカ・ヴァージョン、梅林茂作曲)、エイモス・リー「スキッピング・ストーン」、ライ・クーダー「バスライド」、カサンドラ・ウィルソン「ハーヴェスト・ムーン」、ハロー・ストレンジャー「ザ・デヴィルズ・ハイウェイ」、グスタヴォ・サンタオラージャ「パハロス」、キャット・パワー「ザ・グレイテスト」。

 ウィン・カーウァイが、数多くの中から選んだ曲が、斬新で、絵画的で、シュールな映像にうまくマッチするこの映画は、写実で客観的なフィルム画面と、心情的な音楽を掛け合わせて、奥深い、内容のある会話で、現実の痛手を負った失恋から、新たな一歩を踏み出す女性が、偶然出会った新たな恋物語です。


 カウンター越しの、奇妙な、ぎこちないキスシーンが、勇気と希望を与える、映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」はお洒落な映画です。



投稿者: 今井 政幸


『マイ・ブルーベリー・ナイツ』 公式サイト






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第四十六幕 アメリカを売った男

スリリングな心理劇   映画 『アメリカを売った男』


『アメリカを売った男』米国上映時のポスター  『アメリカを売った男』国内上映時のポスター
米国上映時のポスター                       国内上映時のポスター


 2001年2月18日、FBI特別捜査官ロバート・ハンセンがスパイ容疑で逮捕された事実を元に、その逮捕に至った経緯が克明に描かれたこの映画は、終始、スリリングな緊迫感に満ちています。

 ロバート・ハンセン(クリス・クーパー)を追い詰めた、ライアン・フィリップが演じるFBI捜査官のエリック・オニールが、この映画の原案者です。

 内情をすべて知る当事者が映画製作に加わったことから、映画は全編、相手の胸の内を互いが互いを探りあうリアルな心理劇になりました。画面には緊迫感がみなぎります。

 エリックが、ロバート逮捕のために選ばれたのは、コンピューターの専門知識があることや、積極的に上部に企画立案を提出する野心さが買われてのことでした。

 冒頭、映画は、配属前のエリックの仕事ぶりを描きます。

 次に、家庭でのエリックが妻と二人で、戯れている姿が描かれます。

 妻のジュリアナ(カロリン・ダバーナ)の頭を撫でるエリックの、たわいもないくつろぎのひとときです。

 そんなところに電話が鳴ります。

  妻はエリックに、「出ないで」と頼むのですが、エリックは受話器を取ります。

 これが、ロバート逮捕に向けてエリックを専任する呼び出しの電話でした。

 この、冒頭、わずか数ショットのシーンが、映画のエッセンスをみな凝縮しています。

 この映画は、ロバート逮捕に至る些細なFBIの活躍の描写とはうらはらに、ロバート逮捕のためにエリックの家庭が壊されていく過程を詳細に描いた物語でもありました。

 信心深いロバートは、気の乗らないジュリアナをも日曜ミサに誘い込み、エリックの身辺調査のため、妻ボニー(キャスリーン・クインラン)と同行で、エリックの家に押しかけます。

 食事時間に遅刻のエリックがとっさのついた嘘を聞き逃さないジュリアナは、ロバートに振り回されるそんな有様に爆発して、エリックに、与えられた使命がなにかを問い詰めるのでした。

 映画の中で、ロバートがスパイとなった動機やいきさつが細かく語られることはないので、史実マニアにはもの足らなくもありますが、事件を通して、エリックが最終的に出した、家庭の平和とやすらぎのための結論は、互いの腹の中をさぐりあうスパイ行為の無意味さを突いて秀逸です。

 人智が到達する前途に明るい希望を見いだす、映画 『アメリカを売った男』 は見事です。



投稿者: 今井 政幸


『アメリカを売った男』 公式サイト






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第四十五幕 ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー + 冬に咲く、奇跡の桜

泣くな、おまえはひとりじゃない  映画 『ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー + 冬に咲く、奇跡の桜』

 仲間はずれの、赤い鼻のトナカイならぬ、青い鼻のトナカイのチョッパーの物語です。

 航海士ナミが原因不明の高熱で倒れてしまい、医者を求めてルフィ海賊団が辿り着いたのは、年中雪が降るドラム島でした。

 海賊を拒絶するこの島に、なんとかようやく上陸を許してもらったものの、この島にいる医師はただ一人だけでした。

 Dr.くれはは、ドラムロッキーの頂上にある、かつてのワポル国王の居城に住んでいて、気が向いた時にだけ町に降りてきては人々の病を直しますが、莫大な治療費を要求するため人々からは魔女と呼ばれ、怖れられていました。

 ルフィはむろん、途中に待ちかまえる、どう猛なラパーンなどもものともせず、サンジと共にドラムロッキーをめざします。

 辿りついたドラムロッキーの居城に、Dr.くれはの助手として医者となるべく治療を学んでいたのが、チョッパーでした。

 今回の、あまりにも有名なエピソード オブ チョッパーは、国王ワポルによって、国中の医師が医師狩りにあったため医師不足に悩む島のありさまを通して、医療に生きる、Dr.くれはや、今は亡き、チョッパーの唯一の理解者だった、Dr.ヒルルクの信念が描かれています。

 それは、Dr.ヒルルクが体験した、かつて、美しい桜を見て自分の不治の病が完治したことから確信を抱いた、病の治癒には、まず心を癒すこと、というものでした。

 ルフィたちが、ナミを連れ、ドラムロッキーに辿り着いたとき、かつて、海賊の襲撃を受けた時、いちはやく国外に逃亡した国王ワポルが、兄ムッシュールと共に、島に戻ってきました。

 ムッシュールは、体内に毒性の胞子を育てていて、胞子爆弾を打ち上げることで、島中に猛毒をばらまこうと企んでいたのです。

 青鼻ゆえに仲間はずれの身から、ヒトヒトの実を食べ、人間の能力を身につけてしまったため、かえって、トナカイ仲間、人間の両方から気味悪がられ、孤独にいたトニー・トニー・チョッパーが、Dr.ヒルルク、Dr.くれはによって、医学の知識を得、海賊ルフィに、気に入られ、ついには、海賊団の仲間となったいきさつが綴られた映画 『ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー + 冬に咲く、奇跡の桜』 は、涙なしでは見られない!



投稿者: 今井 政幸


『ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー + 冬に咲く、奇跡の桜』 公式サイト




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